2016.03.05
海外での活動

「ひと」が関わる国際協力プロジェクト

ラオス

 

サバイディー。2月8日から3月4日までルアンパバーン事務所で短期インターンとしてお世話になった杉戸卓磨(すぎとたくま)です。4週間の全日程を様々な方々のサポートのおかげで無事に終了し、現在はこれまでのラオスでの濃密な日々のなかで得ることができた貴重な知見や感情を自分の中で整理することに悪戦苦闘しています。

研修では、絵本や紙芝居などの備品整理・データ入力・翻訳・印刷された紙芝居の品質確認・各会議への参加などを通じて、国際教育協力の運営の仕組みを実務的な面から理解するという非常に貴重な機会を頂くことができました。

そこで今回は様々な活動の中でも特に印象深い、事業地における複式学級の運営手法改善のためのモニタリングに同行させて頂いた際に得ることができた国際協力プロジェクトに対する自分の中の新たな視点について報告させて頂きます。 takuma

写真:メコン川岸からみた夕日。

今回のモニタリングの目的は事業対象地の小学校の先生方が事前の研修会で学んだ複式学級の運営手法に関する技術の定着度合いの確認と課題の洗い出しでした。各学校において先生方による実際の複式学級の授業を観察した後、先生方・研修会のトレーナーである教育行政官・SVA職員の間で授業運営の課題の指摘や改善方法の提案などに関する会議を、現場に立ってらっしゃる先生方の意見を踏まえて行うという一連の流れとなっています。

モニタリング調査として実際に先生方が教育実践を行う現場である学校に行き、先生の姿、教室や児童の様子、その学校の立地や近くの村、そしてその際の課題の発見や改善に向けて真剣に議論を行う先生方・教育行政官・SVA職員の姿を見たことで自分自身の中で様々に思うことがありました。

例えば学術書や論文に示された文字からだけでは決して分かることができない途上国における教育の実情もその一例として挙げられます。これまで私自身が読んできた途上国の教育問題に関する学術書や論文などにおいて途上国における都市と地方の教育格差がしばしば指摘されており、そのことも知識としては知ってはいましたが、今回のたった1週間の滞在においてでもこれまで知識として知っていた以上にはるかに多くのことが自らの実感として日々目の当たりにする僻地における教育の現実、例えばボートでないとアクセスできない学校・薄暗い教室・圧倒的に足りない教材・足りない教員数などをリアルに感じることができました。本の中に書いてあることを読むだけでは気づくことができない現実がここにあると実感することができた大変貴重な機会となりました。

しかし今回のモニタリング調査への同行を通じて私自身が最も印象的に思ったことがあります。それは国際教育協力プロジェクト、ひいてはあらゆる国際協力のプロジェクトには確かに「ひと」が複雑にかかわっているということです。

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写真:授業の様子

これまで国際協力のプロジェクトに実務的な側面からは一度も関わることがなかった私自身にとって国際協力のプロジェクトとは多くても数十ページの文献のなかで示された情報以上のものではありませんでした。

つまりある問題Aがあり、その改善のために解決法Bを行い、結果としてCという成果とDという課題が残ったといったある種、機械的に結果が産出されるものであり、その過程の中で関わるのも顔が見えないどこか無機質な「人間」に映っていました。

しかしそれは実際の国際協力のプロジェクトとは似ても非なるものでした。例えば教育協力に関する文献において課題の原因として「教員の質が低い」という一言で済まされる裏には一人一人これまで過ごしてきた人生やバックグラウンドが異なる血の通った「ひと」である教員の方々がいます。今回のモニタリング調査に即していえば複式学級の運営に関する同じ研修会を受けたとしてもその技術の定着度は先生方それぞれが直面している状況(学校内のことだけではなく学校外での先生方のプライベートな状況も含めて)やその先生個人の性格によって千差万別であり、それらの「ひと」である先生方と真摯に注意深く向き合い、同じ目線になって課題解決に向けて模索する教育行政官・SVA職員の姿がありました。

例えば先生方が授業を行う際に非常に重要となる年間の指導計画案や毎回の授業案を書いていないという現状に対して、それらを書くことが規則として決まっているから書くのではなく、それらを書くことによって複式学級の運営がより円滑に行うことができることや児童たちの反応が良くなることを実際に教員の方々が経験して自らの実感として達成感を味わい、その結果をモチベーションにしてこれらの指導案や授業案をひとに言われているからではなく自発的に作成するようになる仕組みを作るにはどうすればいいのか?などと考えていらっしゃる教育行政官・SVA職員の姿はある種、非常に人間くさいものであり文献等に文字として落とし込まれた無機質な「人間」とは全く異なるものでした。

一方で特に国際協力のなかでも「教育」という人間の発達にかかわる営みに関する国際教育協力はそのような「ひと」としての側面に他の分野における国際協力以上に十分に注意を払い、関係者と真摯に向き合い、丁寧にプロジェクトを進めていくという意味ではその複雑さと困難さを思い知らされた経験でもありました。

このように課題解決のための行動→解決という一見直線的にみえてしまう「人間」による国際協力プロジェクトにおいてはその間にどのような「ひと」たちがどのように協力し合いながら現地の社会をよりよいものにしようとしているのかは普段はなかなか見えにくいかもしれません。しかしこのような「ひと」たちが同じ目線で協力し合い、よりよい社会を作るために血の滲むような努力や取り組みを行っている現実をごく部分的にではありますが自らの目で見ることができたことは今後の自らの国際協力との向き合い方を考えるうえでこれ以上にない貴重な機会となりました。

さらにはこのような複雑な国際協力の在り方をその中に存在する「ひと」の関わり合いに対する想像力を深めることの大切さも含めて他の日本の人にも伝えていく必要性を強く感じました。この想像力を働かせて、国際協力の現場においてよりよい社会のために日々奮闘している、様々な非常に人間くさい「ひと」たちのことを少しでも考えるようになるとこれまで日本からは遠いどこかで行われていると考えていたあまり馴染みのなかった国際協力がきっとまた違った、より身近なものとして心に映るのではないかと思います。

ラオスでの活動は終了してしまいましたが、帰国後もこれらのラオスでの貴重な学びを糧にして日々精進していきたいと思います。

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写真:授業終了後の会議の様子