ミャンマー 一日も早く平和がくる日を信じて
2019年7月からミャンマー事務所長として活動させていただきました市川斉です。この7月末をもって離任しました。新型コロナ感染症が拡大した昨年4月に一時帰国し、遠隔での事業調整となり、ミャンマーにいたのは8カ月くらいでしたが、いろいろな思い出が走馬灯のようによみがえってきます。
電柱に吊るされたサパー(稲穂)
助け合いの国 ミャンマー
赴任当時から、ミャンマーの独特の文化にすっかり魅了されました。例えば、世界有数の 助け合い国家であり、貧しいながらも人と人だけでなく、生きとし生けるものが助け合っていきていることです。例えば、ヤンゴンで見かけた「サパー」という、樹木に吊るした稲穂。おまじないかと思っていたら、「街中では、田んぼがないので、もみがついた稲穂を吊るしておけば、小鳥にとって、もみは食糧になるし藁は巣作りに使えるから」という回答でした。日本なら鳥害と言われバッシングにあいそうですが、ここでは当たり前。蚊やハエもなるべく殺さないように追い払うなど、生き物すべてに対する思いやりを感じます。また、水のお布施、どこでも見かける道端の水甕(みずがめ)。誰でも喉が渇いたら飲めるようにとの配慮で、地域や個人などが管理しています(「ミャンマーの水事情 仏教国ならではの「水のお布施」の習慣」を参照)。
また、人々の助け合いは、コロナ禍の厳しい状況でも見受けられました。例えば、当会のヤンゴンに在住するスタッフが「居住するアパートからコロナ感染者が出て、二週間、外出できません」との一報がありました。当時は、感染者が出るとアパート全体で居住者全員の外出が即座に禁止されました。周りの住民が、交代で食事の差入れ、生活必需品を提供して、使えきれないほど物資の提供を受け、生活には困らなかったと報告を受けました。大都市であっても、助け合いのセーフティネットが機能していると驚きました。
学校での移動図書館活動で、子ども達が夢中になって絵本を選ぶ姿
コロナ禍での事業運営
昨年4月、新型コロナ感染症拡大により、ミャンマー事務所の日本人スタッフ、インターンが緊急帰国。遠隔での業務調整は、オンライン会議の設定も一苦労。日本と違って、ミャンマー人スタッフの在宅勤務は、頻発する停電、インターネットが不安定なこともあり、オンライン会議でも、スタッフが入れ替わりで画面の前に現れたり消えたりして、会議開始まで10~20分くらい待つのも、当たり前な時もありました。しかし、当初、外部の会議が制限されていましたが、オンライン会議であれば、行政から許可がでるようになり、公共図書館員、学校の先生とオンラインを使った定期会議、ワークショップを開催できるようになりました。参加者の皆さんは、通常、パソコンを持っていないので、スマートフォンによる参加でしたが、当会スタッフの周到な準備のおかげで、昨年下半期からは、オンライン会議を中心に、制限がありながら活発な意見交換ができました。以前は、対面が当たり前だったので、画面で見ると皆さんがとてもスマートで知的に見えたので不思議でした。会議では、会えない思いを吐露しあい、活発な意見交換となりました。
当会スタッフも、学校に行くことができない子ども達へ、少しでも家庭でも楽しめるようオンラインライブライリーを開始。Youtubeを通して、よみきかせの動画をアップしてました。
図書館ワークショップで真剣に練習する公共図書館職員(2019年)
すべてが変わった2月1日 国軍のクーデター
しかし、2月1日に、すべてが変わってしまいました。CDM(市民不服従運動)に対する国軍の弾圧。最近では、表面的な抵抗運動は収まったように見えますが、少数民族地域での戦闘が激化し、6月時点で難民12,000人、国内避難民175,000人に上り緊急事態が続いています。直近の1か月間では、新型コロナ感染症の第3波が押し寄せており、クーデター後は病院や隔離施設も機能しておらず、ワクチン接種の見通しは立たず、軍政権に対する市民の不信感が強いこともあり、病気になっても自宅療養しかありません。物流も停滞し食料品の価格が高騰し、世界食糧計画(WFP)によれば、この半年間で都市部を中心に340万人が飢えに陥ると予想されています。子どもたちも昨年6月から学校に行っておらず、子ども達の学ぶ機会の長期間にわたる欠如が懸念されます。
このような状況の中で、この半年間、事業と事務所継続を模索してきましたが、活動の制約は厳しく、事務所規模を縮小し、8月から新たな体制での継続となり、バトンタッチをしました。
当会スタッフが指導するアイスブレーキングを楽しむ校長先生(全国管理職研修会にて/2019年)
この30年間のシャンティとの関りで見えたこと
自分の無力感、ミャンマーの人々が抱える問題に、国際社会が十分対応できないことのやるせなさを感じています。しかし、国軍のクーデターの問題は、単に、ミャンマーだけの問題ではないと、改めて感じています。私がシャンティに入職した30年前は、経済先進国の豊かさが、アジア・アフリカの貧しさとつながるいわゆる”南北問題”をどう考えて、NGOとして活動すべきかということが使命でした。しかし、この30年間、経済や紛争のグローバル化が進む中で、人々の人権が制限されるのが当たり前になり、市民社会スペースの矮小化は大きな問題になっています。まさに、世界の至る所に、基本的な人権が無視され、経済格差の問題が噴き出るような状況が進んだと実感します。このことを自分事として、どう考えるのか?ミャンマーだけの問題でなく、問題の本質を見失わずに、これからも頑張っていきたいと思います。そして、ミャンマーで一緒に活動した仲間、市民の皆様に一日も平和が来ることを心からお祈りします。
2020年2月9日に開催したおはなし大会終了後、スタッフとの記念撮影。これが最後の記念写真ともなりました。また、一緒に仕事をできる日を信じて。