ミャンマーの教育を支える先生たちの苦悩
ミンガラーバー
ミャンマーピー事務所インターンの黒田です。
前回の記事ではミャンマーの寄付文化についてお話したので
今回は「寄付」で成り立つミャンマーの教育制度についてご紹介いたします。
今回この記事を書こうと思った理由は、
来年度の学校建設支援校の調査をしていた際に寺院学校の教員の給料が想像以上に低いことに気が付いたからです。
ミャンマーには、公立学校のほかに寺院学校があります。
(当会が建設支援しているのは寺院学校です)
公立学校は日本の公立学校と同様に政府の全面的な支援を受けて市や県単位で運営されている学校で、教職員は公務員です。
一方、
寺院学校はかつて日本で栄えた寺子屋のような存在で、政府の支援を受けずに地元からの寄付のみで運営されてきました。近年は政府から教員給与の部分補助などを受けていますが、運営資金の大部分はいまだに地元からの寄付および校長自らの資金集めによって賄われています。
また公的機関ではないため教員は公務員ではありません。
このように政府と学校のつながりに大きな違いが見られますが、学校と生徒の間にも明確な違いが存在します。
それは、公立学校が教育のみを提供するのに対し、寺院学校が教育だけでなく生活保障も提供している点です。
公立学校は基本的に日本と変わりません。
授業料は無料ですが筆記用具などの備品は各生徒が自分で購入する必要がありますし、昼食も有料の給食(もしくは弁当持参)です。そして授業が終われば生徒は各家庭に帰宅します。
しかし、寺院学校は授業のみならず生活するために必要なあらゆるものを無償で提供しています。寺院に寄宿している生徒も多く、彼らには朝食・夕食も無償で提供されます。
つまり公立学校よりも寺院学校の方が日常的な支出は多いのですが、政府からの支援は少ないという厳しい状況に置かれています。
いくらミャンマー人が世界一寄付をする国民性を持っていると言ってもやはり限界があるためどこかで支出を削らなければ運営が成り立ちません。
しかし子どもたちの食費を削るわけにはいかないため、教員の給料が真っ先に削られてしまいます。
民主化以降ミャンマー経済は成長を続けているため、物価も上がってきています。
それに伴いミャンマー政府は最低賃金を改め、日給4,800チャットに引き上げました。
(詳細はこちらのニュースでご確認ください)
4,800チャット × 20日(平日5日×4週間) = 96,000チャット
簡易的な計算ですが、最低月収は約10万チャットということになります。
これに対し私が実際に行ったインタビューで、月給30,000~40,000チャットの教員が少なくないことが分かりました。つまり最低賃金の約3分の1しかもらえていないわけです。
寺院学校では一日平均6時間の授業が行われているので、月の労働時間は
6時間 × 20日(平日5日×4週間) = 120時間
35,000チャット ÷ 120時間 = 292チャット/時間
2018年7月30日時点の円・チャットレートは約13円/チャットなので
292チャットは約22円ということになります。
寺院学校の教員は毎日時給22円で働いているのです。
物価が日本の約10分の1であることを考慮しても少なすぎる給料です。
例えば、500mlのコーラは一本42円です。
寺院学校の教員が2時間働いてやっと購入できます。
生徒数に対する教室や教員数の不足により複式学級や二部制など過酷な労働環境を強いられているケースも多いことを考えると、より一層彼らの労働環境の過酷さが際立ちます。
しかしこの状況を打開する有効な方策はまだ見つかっていません。
一般的に考えて方法は2通りありますが、どちらも厳しいです。
1、 寄付を募る
すでに地元の人々は各々の限界まで寄付しています。また経済発展を遂げているとはいってもミャンマーはいまだに後発開発途上国に分類されており、地方の人々の経済状況はいまだ芳しくありません。
2、 政府から補助してもらう
実は政府による補助はすでに受けていてこの給料なのです。
補助が打ち切られると教員の給料を一円も払えなくなる寺院学校もあります。
政府の財源は公立学校に優先的に配分されるため、補助が増額される見込みも今のところありません。
ちなみに、政府による全面的な支援を受けている公立学校の教員は月収18万チャットです。
公立高校も寺院学校と同様に一日6時間のカリキュラムなので、同様の計算式に当てはめてみると
18万チャット ÷ 120時間 = 1,500チャット/時間
寺院学校教員の約5倍の給料をもらっています。
先ほどの例でいえば、一時間働いただけで500mlのコーラを約3本買えますね。
また公務員は退職後に年金をもらえるので、将来的に考えても寺院学校教員と公立学校教員の格差は非常に大きいです。(ミャンマーでは公務員のみ年金制度があります)
様々な事情から公立学校に通えない子どもたちに教育機会を提供する寺院学校は、ミャンマーにとってなくてはならないセーフティネットのような存在です。
しかしその運営を担う教員の方々はこのように過酷な状況に置かれています。
公立学校よりも寺院学校に多くの予算を割いてもらいたいなあとどうしても思ってしまいます、、、
ミャンマーピー事務所インターン 黒田