2015.08.05
海外での活動

ある日の調整員 -カンボジアコミュニティ図書館-

カンボジア

「NGOの海外事務所で働く日本人調整員って、普段どんな仕事してるの?」

「細かいフィールドワークは現地職員に任せて、
普段は事務所で事業のデスクワークしてるけど、
定期的なモニタリングや大事な時に事業地に行くので、
なんだかんだでけっこうフィールドワークに出てる。」

日本からの訪問者によく受ける質問と、
それに対してのわたしの返答です。

なんとも「ふわっ」とした回答です。
特にフィールドで何やってるのか、まったくイメージがわきません。

うまく伝えられず、もどかしいおもいをしたりしているので、
この記事では、カンボジア農村部でのコミュニティ図書館事業の調整員をしている
江口のフィールドで過ごす1日を紹介します。

1日の最後に目にする光景とは!?

7月下旬のある日(晴天、最高気温35℃)

6:30 起床

地方都市コンポントムのゲストハウスで目覚ましに起こされ、1日がスタートしました。
一晩中、扇風機の風にあたり続けて寝たせいで、寝ぐせがすごいことになっています。
この日は朝から事業対象地に行くので、前日から最寄の都市のゲストハウスに泊まっていました。

7:00 出発

この日はコミュニティ図書館1館目のニーペック集合村に向かいます。
シャンティの運転手が運転する車に乗って移動するので、移動に安心感があります。
遅く起きたので、朝食は車の中でバナナを食べました。

カンボジア事務所は通常7:30から勤務開始ですが、
この日は村でやることがたくさんあるので早く出発しました。

村へ行くには舗装された幹線道路を15分ほど走り、
そこからでこぼこの村道を45分ほど走ります。

7:15 花屋で花・苗木を買う

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雨季に入ったことで、この日は図書館で植栽も行うので、都市部にある花屋によって、
前日に目星をつけていた花、苗木を買っていきました。
影をつくる木、花を咲かす木、果物がなる木の3種と、
それぞれの色のバランスを考えて選びました。

8:30 ニーペック図書館に到着、植栽を始める

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あらかじめ用意しておいた植栽計画に基づいて、まず穴を掘っていきました。
村の住民と一緒にやります。子どもは午前に授業がない子たちに手伝ってもらっています。

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こっちでは村に自生している植物を肥料として使う準備をしています。

雨季に入ってだいぶ涼しくなってきているとはいえ、この日は晴天で35℃あったため暑いです。

村には電気がなく扇風機も使えないので、村に行くと汗をたくさんかきます。
服が汗でびっしょりになるのをさけるため、村に行くときは
汗を吸って乾きやすい素材の服を着ていくようにしています。

9:30 少しだけガールズトークに入れてもらう

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※写真の絵本:ちびゴリラのちびちび(ほるぷ出版)

図書館の縁側ベンチでにぎやかにしていた女性グループとおしゃべりしました。
おしゃべりは現地職員に通訳してもらいます。

村のガールズトークは、小学生から70歳まで世代を越えて参加しています。
ほとんどの女性が識字教室参加者で、6月に教室が始まってからは、
夜に教室に出席するのに加え、おしゃべりや本を読む練習に、
日中も図書館に来るようになったとのことです。

「えっ、2ヶ月でもう本読めるようになったの!?」
ってきくと、

「まだちゃんと読めないけど、文字が認識できるようになってきた」
とのことです。

10:00 図書館でデスクワークをする

スマホでメールをチェックすると、急ぎの仕事が入ってきた!? Σ(゚Д゚)
ので、持ってきていたPCを開いて図書館でデスクワークします。
この村には電気がありませんが、携帯電話の3G回線はかろうじて届いているので、
遅いですがスマホでインターネットができます。

それでも、スマホやPCの電池が切れたらそれまでなので、
PCのバッテリー残量を気にしながら仕事をするというスリル感があります。

12:00 村で昼食

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この村には外食ができる「食堂」的なものはないので、
村で売店をやっている住民にお願いして用意してもらいました。

写真のようにスープ1品におかずが少し出てきて、それをみんなで分け合うという感じです。
食べ方は、スープをご飯にかけ、少しのおかずを利用してご飯をたくさんかきこむ、という感じです。

13:00 太陽光発電システム設置の確認をする

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※屋根の上にのっているのがソーラーパネル。

この日のもう一つの大きな仕事は、図書館の夜間運営強化のため、
太陽光発電システム一式と照明器具を設置することでした。

朝から業者が設置を進めていましたが、計画通り順調に設置が行われているか、
チェックして回りました。

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照明設備はコミュニティホールにも設置するのですが、
業者が考えた設置案では、十分な照明が得られないことが判明しました。

そのため急遽、業者と打ち合わせし、こちらの考えた案に配置を変えてもらうよう手配しました。

日本と違い、カンボジアの業者はそこまでプロ意識が高くないため、
「業者にお任せしておいて、いいものが仕上がっている」なんてことは期待できません。
自分でしっかりチェックし、不具合等があったら、
修正願いなどを丁寧ながらも積極的に主張する必要があります。

14:30 デスクワークに戻る

さきほどの仕事が終わってなかったため、PC作業に戻りました。
そろそろPCのバッテリーが心もとなくなってきました。

村で急ぎのデスクワークがあり、あと少しで終わるときに、
電池切れになったときの絶望感はすごいものがあります。

あせって仕事し、かろうじて電池がもっている間に片付けられました。

16:00 図書館の利用者を観察する

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村に来ると、図書館や村の人たちの生活を観察し、必要だったら聞き取りするようにしています。
この日は図書館で遊んでいる子どもたちを観察しました。
最近導入したカンボジア版チェスや組み立てブロックで遊ぶのが人気です。

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※写真の絵本:くまさんくまさんなにみてるの?(偕成社)

よく識字教室参加者の女性が、絵本を読んでいるのをみかけます。
文字があまり多くないので、識字初心者が読み始めるのにちょうどいいようです。
上の写真ではシャンティの「絵本を届ける運動」で日本から来た本を読んでいます。

16:30 花壇に頭を悩ます

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朝から住民と進めていた植栽も、夕方には図書館前の花壇までやってきました。
花壇の花の置き方について意見を求められました。

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結局、1時間ほど悩んで写真のように並べました。
18:00 イベント準備にとりかかる

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夜に図書館で行うイベントの準備を手伝います。
なんのイベントかわかりますか?
電気はソーラー発電がまだ準備できていないので、車のバッテリーを使いました。
19:00 のど自慢を始める

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※恥じらいながら デュエットする住民

村でコミュニティ図書館の認知度を上げ、利用者を増やすために、
1、2ヶ月に一度、図書館で推進イベントを開催しています。

この日はカラオケ大会を開催しました。
住民のみなさんにとってカラオケをするのは初めてです。
歌う人は照れながら歌い、聴く人も笑みを浮かべています。

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事前アナウンスはしませんでしたが、歌につられ自然と200人ほど集まりました。

なぜコミュニティ図書館の推進イベントが必要なのでしょうか。

対象地の成人住民の多くは、過去の経験から教育に対して苦手意識を持っており、
教育レベルの高い住民を除き、センターの敷地に足を踏み入れることでさえ、
かなりハードルの高いことです。

対象地域の成人は、小学校未修了者、および読み書き計算に不安がある住民が
ともに8割を超え(昨年度ベースライン調査結果より)、
教育に対して「堅苦しい、つまらない、自分は対象外」という意識を持っています。

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このような住民を呼び込むには、まず住民の教育に対してのステレオタイプを
打破する必要があります。

そのため第一段階として、図書館で住民が好むスポーツや文化活動などを行えるようにし、
まず施設に足を運び、親しんでもらいます。

その後第二段階で、この親しみやすい活動と、識字教室などの教育活動をつなげ、
段階的に利用者を教育活動に引き込んでいくことを狙っています。

SVA approach to CLC
※シャンティのコミュニティ図書館(CLC)事業のアプローチ図。
「楽しい」、「快適」、「役に立つ」コミュニティ図書館の活動を通して、
住民の生活向上、ひいては村の発展を目指します。

カラオケは、識字学習の推進もかねるので試験的に導入しています。
カンボジアでカラオケは都市部の中間層以上に人気で、
農村部の住民にとっては憧れです。
とりわけ若者の間では、「カラオケが歌えるとかっこいい、もてる」といった感じがあります。

ですが、カラオケするにもTVに写る歌詞が読めないと、十分に楽しめません。

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※識字学習者のパ・ポムさん(真ん中)。TVに写る歌詞はまだ読めないので、
この日は歌詞を覚えている曲だけ歌っていました。

識字学習は険しい道のりです。

なんとかがんばって、週6日のコースを7ヶ月間通って、
識字教室を卒業したとしても、「本がすらすら読める、文章がすらすら書ける」
レベルにはまだ達しません。

日常生活で使いこなせるレベルになるには、図書館で本を読んだり、
手紙を書く練習などして、あと1~2年必要になるとみられています。

それゆえ、識字学習を継続的に続けていくためには、
「このためならがんばれる」といった強い動機が必要になります。

「読み書き計算ができれば、日常生活が便利になるよ」と言っても、
あまり住民の心に訴えかけません。
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※シャンティのコミュニティ図書館を使って、村を元気に、豊かにしていく戦略図

それよりも、識字学習の先にある「楽しい」、「わくわくする」ことに
実際にふれてもらった方が、よっぽど強い動機付けになります。
動機が学習者の興味・関心に基づいた内発的なものであれば、いっそう強いものとなります。

カラオケもうまく使えば識字推進の強力な道具になるとして、
ただの娯楽に終わらないよう気をつけながら事業に導入しています。

コミュニティ図書館で、カラオケ識字、映画上映などの文化活動や
スポーツなどのレクリエーションに力を入れるのは、
住民みずからが自分の家族の暮らしを、ひいては村をよくしていく
「元気の源」になると考えているからです。

20:00 太陽光発電システム設置完了、照明オン!

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ま、まばゆい、、、Σ(´Д` )

のど自慢の最中に業者が取付けを終えたということで、すべてのライトをつけてみました。
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図書館正面です。
夜には真っ暗闇になる村の中で光を放つその姿は、神々しくすらあります。

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コミュニティホールです。
今後はバレーボールやサッカーのナイターとしても、
映画館としても使われるようになります。
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図書館内にもLED電灯、シーリングファンが設置されました。
車のバッテリーで電気をつけていたこれまでに比べて、図書館内が見違えるほど明るくなりました。

20:30 村で夕食

のど自慢を抜け出し、図書館館長の家でごちそうになりました。
昼食と同じくスープ1品とおかず少しを分けあう感じです。

館長とは「で、実際のところはどうなの?」
という本音トークを軽く交えました。

21:00 片付け

のど自慢も今夜はここまで、撤収の準備をします。

21:30 出発

帰りの途につきます。だいたい車の中では寝ています。

22:30 宿泊先到着

23:00 就寝

この日は朝から晩までコミュニティ図書館にいて忙しい日でしたが、
いろいろ進んだのでとても達成感がある日でした。

コミュニティ図書館事業、応援よろしくお願いします!

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ノンフォーマル教育事業調整員
江口 秀樹