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2021.09.18
開催報告

【開催報告】9.11から20年オンラインイベント「アフガニスタンを生きる女性たちー暮らしを支える手仕事」

アフガニスタン
イベントレポート
クラフトエイド

アメリカ同時多発テロから20年を迎えた9月11日(土)「アフガニスタンを生きる女性たち—暮らしを支える手仕事」と題したオンラインイベントを開催しました。

シャンティのフェアトレード事業であるクラフトエイドでは、2009年からアフガニスタンで女性たちの生活を支援するため、「シルクロード・バーミヤン・ハンディクラフト」を立ち上げた安井浩美さんとともに、アフガニスタンの商品を日本で販売し、情報を発信することで、アフガニスタンの支援を続けてきました。
今回のイベントでは、安井さんをお招きし、商品作りの秘話や、アフガニスタンの伝統技術などについて伺いました。また、この20年間での女性たちの変化や、混迷するアフガニスタン情勢に対して私たちが出来ることについてもお話いただきました。

登壇者

【安井浩美さん】
2001年のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけにアフガニスタンに入り、現在、共同通信社のカブール支局で通信員として働くかたわら、女性の生活支援のために立ち上げた会社「シルクロード・バーミヤン・ハンディクラフト」の代表を務める。

【山本英里】
シャンティ国際ボランティア会事務局長 兼アフガニスタン事務所所長。2002年にユニセフに出向しアフガニスタンで教育復興事業に従事、その後、2003年よりアフガニスタン他、アジア各国で教育支援に携わる。2019年より現職。

クラフトエイドの概要
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クラフトエイドは、1985年にタイ東北部のバンビナイ難民キャンプで活動を行った際に、ラオスから避難してきた山岳民族が作る民芸品を日本に持ち帰り、難民支援バザーを開催したことがきっかけとなり始まったフェアトレード事業です。詳細は、弊会ホームページをご覧ください。

アフガニスタン現場からの報告
シャンティでは、アメリカ同時多発テロ事件後の2001年よりアフガニスタンでの支援を実施しています。事務局長の山本より、混迷を深めるアフガニスタンの現状、当会のアフガニスタン事業ついてお話させて頂きました。詳細は弊会ブログ内「アフガニスタン」をご覧ください。

パネルディスカッション

安井さんと山本は、2003年に初めてアフガニスタンで出会って以降、現地で過ごした数少ない女性友達という関係で、アフガニスタンの貧困、教育問題のために一緒に活動をしてきた仲間でもあります。
ここからは山本が進行しながら、安井さんが女性支援の活動を始めた経緯やアフガニスタンの伝統工芸についてお話を伺いました。
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女性支援を始めた経緯
安井さん:2001年にアフガニスタン入りし、はじめはトルコやパキスタンなど隣国から帰還してきた避難民の子どもたちために私設の学校をキャンプ内に作り、教育の支援をしていました。この活動は、2007年教育制度がある程度、整備されるまで続けました。
その後も、避難民の人々との交流が続く中で、その日暮らしの厳しい生活を送る彼らのために何かできないか、と考えるようになりました。ちょうどその頃、主人がアフガニスタン中部のバーミヤンにホテルを建てることになったので、客室用のクッションなどの備品作りを手掛けてもらうことにしました。最初はこのお金が生活の足し程度になっているのかと思っていたのですが、生活費の主要な現金になっていたことが分かり、ホテル内にお土産屋さんを作ることで、女性たちの仕事を継続させることにしました。
その後、シャンティとの連携も始まり、事業が回るようになった2010年に会社を設立しました。NGOではなく会社を立ち上げたのは、「アフガニスタンの人たちに自立してもらいたい」という想いがあったからです。お金がどう入って給料に繋がっていくのか、スタッフにも理解してもらいたく、活動を始めた当初から「ちゃんと働かないと給料ないんだよ」と言い続けました。今では、注文が減るなど状況が変化すると「大丈夫かしら?」と心配してくれるまでになりました。

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山本:2010年の会社設立前から、試行錯誤されていたのを私も良く覚えています。アフガニスタンで売れる商品を作るのはご苦労があったと思いますが、いかがでしたか?

安井さん:画面で映っているピースベアはシルクロードバーミヤンの一番の人気商品で、海外からの注文がきたこともあります。それまでアフガニスタンで売られている人形は高いだけで可愛くなく、人形に民族衣装の帽子を付けたら可愛いのではと思い、小さい帽子をスタッフに作ってもらったのが始まりです。最初はインターネットや本でテディベアの型紙を調べ、まずは自分で手縫いしながら試作品を作りました。
最近は色々な材料も手に入るようになり、始めた頃と比べると衣装も豪華になり、様々な民族衣装を着たベアを製作しています。すでに完成して準備が整っているピースベアもあるんですが、この混乱で発送が出来なくなり、今は工房に置きっぱなしになっています。

作り手さんたち
山本:ピースベアをはじめ商品を作っている女性たちは、何名くらいいらっしゃるんですか?

安井さん:作り手は、主にカブールで暮らすバーミヤンやガズニ出身のハザラ民族の女性たちです。工房では4名の女性が働いていて、バッグやポーチ、ピースベアの洋服の縫製を担当しています。それ以外に、刺繍などを担当する女性たちがいて、多い時には150名ほどが工房に通っていました。

山本:刺繍や縫製の技術のためのトレーニングはどのようにしているんですか?

安井さん:貧困や材料の入手が難しいなどの理由で手芸をやらない女性も増えましたが、昔は女性は手芸が出来て当たり前でした。この活動を始めた理由の一つとして「伝統工芸を絶やさない」という目的も大きいので、もともと手芸が出来る人を雇っています。技術向上のため、そこから色々な商品を繋がるための指導はしています。

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安井さん:この刺繍は、親子3代で工房に通っている人がデザインしたもの。伝統的な手刺繍の技術を使いつつ、デザインは現代風に仕上げています。

山本:デザインで気を付けていることはありますか?

安井:会社設立当初、デザインをアフガニスタンの女性に任せたら、ハートに矢が刺さったものやロウソクなどジハードを彷彿させるような刺繍が出来上がったことがありました。そのため花柄など今の人たちが好むデザインにするよう指導しています。

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安井さん:この手織りの布は、アフガニスタンの人たちが食事をするときに床に敷く、テーブルクロスみたいなもの。平織りで、縦に10~15メートル糸を張り、経糸で色を出し、横糸でしめていきます。昔は羊の毛をウールの糸にし、さらに色染した糸を使って編んでいましたが、最近ではアクリルの毛糸が出回るようになり、色が豊富で鮮やかな色を好むバーミヤンの人たちは、アクリルの毛糸を使うことが多くなりました。

山本:私が住んでいた東部地方には、このような手織り布はなかったんですが、地方によって違うものですか?

安井さん:そうですね。これはバーミヤンとバダフシャーン地方のもの。ハザラ族とバダクシャニと呼ばれる山岳民族の人たちが作っています。

山本:伝統的な織り機で織っていますが、今でもこの織り機を使っているんですか?

安井さん:そうです。杭を打ち込むだけなので、平地があればどこでも織れます。10mも糸をはらないといけないので、織ることよりも糸をはることの方が大変なんです。

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安井さん:タッセルはもともと遊牧民族の家畜の飾りとして使われていたもの。パシュトゥン族の人たちは民族衣装にタッセルを縫い付けます。またトルコやウズベクの人たちが使う「ユルタ」と呼ばれるテントの飾りとしても使われています。魔除けとして、赤ちゃんにも付けたりします。

山本:東部の山岳地域でも、赤ちゃんに飾っているのを良く見かけました。

安井さん:あとは女性が使う小物入れなどにも使われています。アフガニスタンの女性は「ソルマ」と呼ばれるアイラインを施しますが、ソルマはお化粧というよりかは薬みたいな役割だと思われていて、ソルマを入れる袋の縁にタッセルを付けたり、また鏡の周りに縫い付けるなど、装飾としても使われています。

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安井さん:ミラー刺繍も魔除けの一つで、悪い目を反射する、押し返すという意味があります。アフガニスタンでは主にパシュトゥン族の人たちが民族衣装に縫い付けていて、子どもたちの衣装にもたくさんの鏡が付けられています。また、おしゃれの一環として、ヤカーンと呼ばれる服の前側にミラー刺繍を施す人もいます。

山本:昔は重ければ重いほど衣装としての価値があるっていうことで、色々なものをジャラジャラ付けた10キロくらいの衣装をもらったことがあります。

安井さん:パシュトゥンの人たちはそうですよね。ミラーだけでなく、メタルで作られたジャラジャラと音のでるものを付けたり、特大のミラーを肩から下げるなど、色々な形で装飾していますね。

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山本:シャンティが運営する図書館内でも、ビーズ刺繍を刺す子どもがいます。小さい頃から家庭で習ったりするんでしょうか?

安井さん:昔は6,7歳になると、お母さんから手工芸を習い始めたそうです。お母さんは、子どもの花嫁道具を何年もかけて作るため、それを作りながら子どもたちは手芸を習いました。最近では、このような習慣も少なくなってきていますが、工房に来ている人たちの中には、親子3代に渡り手芸を続けている家庭もあります。今までは自分たちの文化の一環で手芸を続けているだけでしたが、就学経験のない彼女たちが、自分たちの技術で身を立てられるようになった事は、非常に評価できることだと思っています。ただ、今回の混乱により今後どうなるのか分からないのが寂しいところです。

混迷を続けるアフガニスタンのこれまでとこれから

ここからは、主に女性にフォーカスをあて、この20年間での変化や、混迷するアフガニスタン情勢に対して私たちが出来ることについてお話いただきました。

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Q1:外国人女性として、アフガニスタンで暮らすことについて
山本:20年間アフガニスタンで暮らしてきて、大変だったことはありますか?

安井さん:良い意味でも悪い意味でも、大変さを感じてこなかったから20年も暮らしてこれたんだと思います。特に女性だからという訳でもありませんが、ビザを取ることが一番大変でした。初めは6か月しかもらえず、アフガニスタン人と結婚してからも1年、しかもシングルビザしかもらえませんでした。ある時からマルチプルになりましたが、毎年更新するのは本当に大変な作業です。

山本:この20年でカブールでの生活は暮らしやすくなりましたか?

安井さん:2002年頃はミネラルウォーターも売っていませんでした。ある時、お米を炊いたら緑色に炊き上がって、ヒ素が入っているのではないかと驚きました。今は、お金を出せば何でも手に入るようになりました。強いて言うなら、アフガニスタンの慣習に合わせて、外に出るときは必ずスカーフを被るようにしていました。アフガニスタン人からしてみれば当たり前のことで、外国人だからと相手に不快な思いをさせるのも嫌ですし、結婚してからは敬虔ではないもののイスラム教徒でもあるので、外に出る時はきちんとするよう心掛けています。だからと言って、それが苦になるということではありませんが。

山本:完璧に出来ていなくても、外国人が相手のやり方を受け入れようとすることに対しては寛容に受け止めてくれる民族ですよね。

安井さん:そうですね。その点とても感謝しています。

Q2:20年間の女性たちの変化について
山本:カブールのように大きく変化した地域、ほとんど変わらなかった地域の差はありますが、この20年間での女性の変化をどのように感じていらっしゃいますか?

安井さん:今、カブール市内では「自由」という意味の看板を持った女性たちがデモをしていますが、この20年間で、女性は自由と権利を掴んだのではないかと思います。また女性だけでなく、男性の意識も大きく変わりました。会社設立当初は、女性が働くのは男性に甲斐性がないからと周りから見られるため、いくら貧乏でも男性は女性を働かせようとしませんでした。また女性も隠れて仕事を続ける人がほとんどでした。男性に仕事が見つかり、殴られて青タンを作った女性もいました。しかしながら、女性が働くことで今まで買えなかったものが買えるようになるなど、生活の変化を感じることで男性の意識も少しずつ変わっていったと思います。仕事をすることで賃金をもらい、生活が豊かになる、その背景には夫の理解がある、ということが深く繋がっていると思います。

Q3:今回の政変に対して女性の目線で思うこと
山本:女性の権利の抑圧が懸念されていますが、今回の政変に対して女性の目線で思うことを教えてください。

安井さん:デモで立ち向かっていく女性たちを見ていると、自分たちの生活を守りたい、権利を守りたい、自由を奪わないで、という切実な願いが行動に出ていると思います。女性だけでなく男性も、今後タリバン政権がどのようなものになっていくのか分からない、その怖さを感じているんだと思います。一方、タリバンよりの考え方を持つ女性たちもいます。親タリバン派が増えれば、タリバンよりの政権が樹立されていくんだと思います。ただパンジシール州ではまだ抵抗運動が続いていますし、国際社会もタリバンを国家として認めていません。これで戦争が終わり、アフガニスタンが落ち着くわけではありません。これから更なる問題が山積みになっていく中、皆さんには今後もアフガニスタンの情勢を見続けてもらいたいと思っています。

Q4:今後、日本に望むこと、私たちが出来ること
山本:旧タリバン政権の時と違うのは、少なくともアフガニスタンを孤立させることは得策ではないと考えている点だと思います。またタリバンが政権を制圧した今、タリバンとの交渉を続けていく必要があり、今あるこの状況から、どうすべきなのかを考えていかないといけないと思っています。今後、日本はアフガニスタンとどう関わっていけるのか、また私たちは何が出来るのか、その点について教えてください。

安井さん:一番最初に解決しないといけないことは、国内に残る日本大使館、JICA、NGOなどのアフガニスタン職員および家族500名ほどを退避させること。日本政府には、タリバンなり近隣諸国に呼び掛けて、一刻も早い彼らの退避を目指していただきたい。また国際社会には、国民が何を望んでいるのか「国民の声」を聴き、正しい方向にアフガニスタンという国を導いていってほしいと思っています。今後、人道的援助は絶対的に必要になってくる中で、常にアフガニスタン国民の立場に立って、どういう支援が必要なのか、ということを考えていただき、政府もNGOも国際社会もアフガニスタンの人たちを今よりもよい状態になるように、サポートしていただけたらと思います。

山本:アフガニスタンは多様性に富んでいて、同じやり方が全ての地域で通じるわけではないということを感じています。

安井さん:多民族国家は日本とは違いますよね、民族によって物の見方も考え方も違いますし。タリバンの大多数を占めるのはパシュトゥン族で、少数派はタジク、ハザラ、ウズベク、それ以外の民族という構図も出来ています。土地柄もあるし民族が全てではないけれども、色々な意味で同じ考え方が出来るのか、というとそうでもない。そこも組み入れながら、アフガニスタンの人々が何を望んでいるのか、ということを聞き逃さないで欲しいと思っています。また見栄張りのところもあり、貧困にあえいでいても見せないようにする人たちなので、NGOの人たちには今だからこそ現地に戻り、声を拾い、必要な支援を続けていただきたいと思います。

山本:私も当時、パシュトゥンが多い東部地域で女性が活動することに対して、反対する声もありましたが、女性だからこそ、家の奥まで入り、本来の生活の様子を見ることができたと思っています。男性が入る客室だけ装飾していて、奥に入ると壁もない窓もないというような、質素な暮らしを見ることができました。また「何か問題ありますか?」と尋ねても最初は「ありません」と返答しますが、そういうアフガニスタンの考え方を理解しながら活動を進めていくことが重要だなと感じています。

安井:女性は外に対して言わないですよね。言うことが悪いととらえているところがあるので、なかなか問題が表に出てこない。前向きな言葉と後ろ向きな言葉が全然違ったりもしますし、難しいですよね。

質疑応答

Q:パシュトゥンの女性でも手芸が出来る人はいますか?ハザラの女性と比べて出来る人が少ないなどの違いはありますか?

安井さん:もちろん、パシュトゥンの女性でも出来る人はいます。ただ私の工房に来たことのあるパシュトゥンの女性は一人だけで、あまり接触の機会はありません。バザールに行くと、ビーズでできたタッセルが売られていて、手芸の出来る人はそういうお店にすごく安い値段で商品を卸しています。遊牧民の人たちは自分たちの洋服は全て作るので、刺繍などのテクニックも非常に高いと思います。カブールにいるパシュトゥンの人たちは貧しい人も非常に多いんですが、商業ベースで女の人が表に出てくるのは、まだまだパシュトゥンの社会では難しいのだと思います。

視聴者に向けて一言

安井さん:今、アフガニスタンは大変な状況に陥っています。この先一体どうなるのか私も分からないし、アフガニスタンの人々も分からないと思います。工房も続けられたとしても色々な制約がでて、今まで通り商品を作れないのでは、とマイナスな事も考えたりもします。でも、またカブールに戻れたら、引き続き女性たちの支援を続けていくつもりです。新しい商品を作りながら、アフガニスタンについて発信をしていきたいと思っているので、今度ともよろしくお願いいたします。
また、アフガニスタンのニュースがこれから先、少なくなると思いますが、共同通信としても日本に情報をお伝えていくので、アフガニスタンの状況を引き続き追っていただけたらと思います。

山本:シャンティとして、これから何が出来るのか支援の方向性を模索することになりますが、これまで続けてきた教育支援、人道支援、女性の方々が培ってきたハンディクラフトの支援を継続していきたいと思っておりますので、皆さまどうぞよろしくお願い致します。ありがとうございました。

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アフガニスタン特設ページ開設中

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ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。