オンラインイベント開催報告「国際協力の現場から」Vol.6 新型コロナウイルスが与えた影響~ネパールの子どもたちの今
ネパールでは新型コロナウイルスの感染拡大が広がっており、現在、人口比に対する感染者数が南アジアで最も多くなっています。2020年11月28日(土)に「国際協力の現場から」Vol.6 新型コロナウイルスが与えた影響~ネパールの子どもたちの今と題して、ネパールの様子をお伝えするイベントを開催しましたのでご報告させていただきます。
オンラインイベントにはネパール事務所所長の三宅隆史と、ネパール事務所プログラムマネージャーのビノッド・ダス・グルンが登壇しました。
1. ネパールのコロナ禍の状況
ネパールでは 3月中旬から学校が閉鎖され、3月24日から全国でロックダウンが始まりました。ロックダウンは日本より厳しく違反者は逮捕されることもあります。インドなどの近隣国から帰国した移住労働者がネパール各地に帰国したことから第一波の感染拡大でした。 7月22日にロックダウンが解除されましたが、自治体の判断により継続しています。ヒマラヤの北部は感染者が少ないのですが、南部では感染が拡大しています。
感染者数は現在、累計22万人、1日当たりの新規感染者数は約2,500人、都市部を中心に感染者数が増えています。南アジアで感染者数が多いのはインドですが、人口あたりだとネパールが最も感染者数が多いです。子どもへの虐待や暴力、女の子の早婚、女性への暴力が増加しています。貧困層への打撃が大きく、ホームレスが増えています。住民の人たちが自主的に貧困層への炊き出しを行っているグループもあります。
学校の再開時期の判断は各自治体に任されており、7月中旬以降、感染被害が少ない山間部地域の一部の自治体では再開しました。ティハールというお祭りが今月終わり、これから多くの学校の再開が予定されています。学校が再開できない間は、教員が子どもたちを訪問し、教科書を配布することが多いです。その他、ラジオなどの自宅学習が続いています。オンラインの授業も開始しましたが、インターネット環境の問題により、全国で8%の子どもたちしかオンライン授業を受けることができていません。
ネパールはGNPの観光業が3割、海外送金が3割なので、大きな経済的影響を受けています。ロックダウンで車の移動が制限されているのですが、これは道路の真ん中に牛がいたときの写真です。ネパールは以前から空気汚染、特にPM2.5による被害が大きかったのですが、ロックダウンによる制限で、空気がきれいになり、5月には自宅からヒマラヤが見えました。
2. コロナ禍における緊急救援事業―医療従事者の防護具を配布
コロナ禍への対応事業として、事業地のヌワコット郡の行政に、医療従事者の防護服など感染予防物品を配布しました。シャンティはコロナ禍でヌワコット郡を最初に支援した団体です。
また、2020年8月にネパールで降った大雨により、学校建設事業地の村で大規模な地滑りが発生しました。115世帯が避難し、テント生活を送ることになり、シャンティはコロナ禍における緊急救援事業として、地滑りで被災した115世帯にガスコンロとボンベを支援しました。
3. コロナ禍での事業のチャレンジとやりがい
◆コミュニティ図書館改善事業
現在、図書館1館の建設を行っています。また来年、建設する3館の図書館について、建設準備の協議を進めています。完成した図書館には、図書館機能だけでなく、学習活動ができる部屋を設け、子ども、学生、大人、誰もが学べる場所になります。ロックダウンで様々な困難があります。ロックダウンで建設工事が止まり、図書館の完成が遅れてしまいます。コロナ禍で、自宅勤務がはじまり、ネパールではインターネットの接続不良や停電が起きるので、不便があります。物理的に対面を含む研修などの活動が実施できません。
◆地域学習カリキュラムの開発・普及事業
ネパールの教育省は地域学習という地域について学ぶ科目を導入しました。自治体がカリキュラム(学習指導要領)を作成するのですが、限られた自治体しかこの新しい科目、地域学習のカリキュラムを作製できていません。本事業の対象地には、ネパールで最も周縁化された少数先住民族と呼ばれているチェパン人と、別の少数先住民族のタマン人が暮らしています。ネパールは1~8年生が基礎教育にあたりますが、シャンティは今年、小学校1年生~5年生までの地域学習カリキュラムを作成しました。1~5年生の教科書の開発を進めています。多くの自治体で教員や行政にスキルや資金源がなく、研修もなく、各地域の地域学習のカリキュラムを作成することができていません。
また、事業対象地の自治体のすべての学校、幼児から小学校5年生までのすべての教室に図書コーナーを設置します。これまでの他の事業地でも図書コーナーを設置してきましたが、その経験から、子どもたちは本当に本が好きです。この写真を見ると左の女の子が本を熱心に読んでいるのですが、次に読む本をすでに抱えていて、子どもたちがいかに本が好きかということがうかがえると思います。ある先生が、図書コーナーができてから、低学年の子どもたちが音読のしすぎで、のどがかれて、声が出なくなってしまったと話していました。
◆国連WFP委託 栄養教育改善事業
国連世界食糧計画(WFP)がネパールのヌワコット郡で給食の改善事業を行っています。WFPから委託を受け、シャンティは、栄養教育を普及する事業を実施しています。現在、栄養に関する紙芝居を2タイトル、制作中です。紙芝居は子どもたちにとって教育ツールであるだけでなく楽しめるものです。以前、ネパールには紙芝居がありませんでした。ネパールで初めてシャンティが紙芝居を作りました。
4. 紙芝居の読み聞かせ動画
事業地のコミュニティ図書館で実演した紙芝居の動画を上映しました。
調査をしてみると、紙芝居の授業の前、子どもたちのうち、4%しか地震がなぜ起こるのか知りませんでしたが、紙芝居の授業の後、69%の子どもが正確な知識を持つようになったことがわかりました。他に地震が起きたらどうするかという紙芝居もあり、この紙芝居の活動の前、39%の子どもたちが地震が起きたらどうしたらよいか知っていましたが、紙芝居の活動の後、100%、子どもたち全員が地震が起きたときの適切な行動を理解しました。
教育事業は単にプロジェクトをこなすというものではないと思います。シャンティの活動はそれ以上のもので、人類の文明の発展に貢献する崇高な取り組みだと思っています。私は頭で考えるだけでなく、心で感じて事業に取り組むことをこころがけています。
5. 質疑応答・質疑応答
イベントの最後に参加者の皆様からいただいた質問に回答いたしました。いくつかをご紹介します。
Q. インターネット環境が整っていない地域では、コロナ禍のオンライン教育が難しいと思います。そのような子どもたちへの教育支援はどのようなものがありますか?
A. ラジオ授業が行われています。ラジオも届かない地域では、家庭学習になりますが、定期的に教員が子どもたちの家を訪問して、授業を行っています。そういった支援も受けられていない子どもたちもいます。
Q. ネパールの基礎教育は無料のようですが、全員が通学できているのでしょうか?
A. 非常に良いご質問をありがとうございます。政策レベルでは、すべてのこどもが無料で学校に行くことができることになっていますが、現実は多くの子どもが学校に通うことができません。以前、私たちが訪問した事業対象地には近くに公立学校がなく、片道3時間かけて子どもたちは学校に通っていました。このような地域では低学年の小さな子どもたちは学校に通うことができません。また、教員の教え方、授業の質や学校の環境にも課題があります。有料の私立学校が設立され始めているのですが、貧困世帯の子どもたちは私立学校に通うことはできず、格差の問題も生じてきています。
Q. なぜ、紙芝居をネパールで作ろうと思ったのでしょうか。「紙芝居」を使った教育をしようと思ったきっかけや、子どもたちの反応も知りたいです。
A. ネパールには紙芝居がありませんでしたが、シャンティ東京事務所からの提案により作成することになりました。それまで紙芝居を作ったことはなかったのですが、実際に防災教育の紙芝居を製作し、実際に子どもたちの前で教員が演じてみると、子どもたちが非常に関心を持ち楽しんで、防災知識を学ぶことができ、大きな効果がありました。他のNGOさんにもご関心を持っていただいて、シャンティの紙芝居を各事業で使っていただいています。現在、栄養教育の紙芝居を作成していますが、紙芝居は様々なテーマに応用できる有効なツールだと考えています。
ビノッド:みなさま、ご参加、ご質問いただき、感謝申し上げます。ありがとうございました。
三宅:今、日本もネパールも大変な状況にあります。この大変な状況を同じ地球の仲間として乗り切っていきけるように頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。
本オンラインイベントの様子はYouTubeでご覧いただけます。
報告:事業サポート課 竹本