【開催報告】カンボジア・タイ国境紛争「カンボジア避難民支援活動報告」
1月14日にシャンティ国際ボランティア会はカンボジア・タイ国境紛争により発生したカンボジアにおける国内避難民に対しての緊急支援活動に関する報告会を実施しました。

写真:避難民キャンプの様子
【登壇者】

菊池 礼乃
シャンティ国際ボランティア会 カンボジア事務所 所長
2011年シャンティ入職後、ミャンマー(ビルマ)国境支援事業事務所で7年間活動。帰国後、事業サポート課を経て現職。

脇坂 翠
シャンティ国際ボランティア会 カンボジア事務所 コーディネーター
一般企業、青年海外協力隊、NGO職員、日本大使館外部委嘱員などを経て2025年4月にシャンティに入職。2025年10月よりカンボジアに赴任し、バッタンバン事務所のコーディネーターとして勤務している。
手束 耕治
カンボジア宗教省仏教研究所 顧問、シャンティ国際ボランティア会 専門アドバイザー
1984年、シャンティの前身である、曹洞宗東南アジア難民救済会議(JSRC)から活動に参画。カンボジアを拠点に活動に携わる。
【国境紛争とカンボジアにおける被害状況について】

写真:国境紛争の経緯
報告会では、最初にカンボジア事務所長の菊池より、カンボジアとタイの国境紛争のこれまでの経緯と現状について説明が行われました。冒頭では、カンボジアの基礎情報やシャンティのカンボジアでの活動の歴史が共有され、その上で紛争について解説がありました。
本紛争の起源は20世紀初頭の国境線策定にあり、過去にも断続的に衝突が発生してきた経緯があるとのことでした。2025年5月末から小規模な衝突が再燃し、7月には大規模な軍事衝突へと発展し、当時カンボジア側では約30万人の避難民が発生したことが報告されました。その後、一時的に停戦したものの小規模な衝突は継続しましたが、10月に停戦合意が締結されました。
しかし、12月7日に再び軍事衝突が発生し、戦線は拡大しました。タイ軍戦闘機によるカンボジア国内への空爆も行われ、国境から50km以内のみならず、バッタンバン州周辺の比較的内陸部でも被害が確認されたとのことです。この結果、避難民は急増し、最多で約64万人と、カンボジア総人口の約3.5%に相当する規模に達しました。12月27日の停戦合意以降、年末年始にかけて多くの避難民が帰還しましたが、1月1週目時点でも約16万人が避難生活を続けており、国境沿いの一部地域ではタイ側の実効支配が続き、住民の帰還が困難な状況が報告されました。

写真:カンボジア側の被害状況について
カンボジア側の被害状況に関して北部から西部にかけて戦線が広がり、最多で約64万人に達した避難民のうち、約34万人が避難所で生活し、残りの人々は家族や親せきの家に身を寄せていたと説明されました。避難所は大小あわせて約200か所に設置され、寺院、学校施設、市場などの民間・公共施設が活用されました。
その影響で学校の閉鎖も相次ぎ、全国で1,300校以上が休校となり、約32万人の子どもの教育機会が影響を受けたことが報告されました。また、民間施設にも被害が及んでいる状況が共有されました。
安全情報については、外務省の渡航情報を踏まえた説明がありました。12月12日時点では、タイ国境から50km以内の地域がレベル3(渡航中止勧告)に引き上げられました。その後、12月25日には同地域についてレベル3が継続されるとともに、新たにタイ国境から50kmを超えて80km以内の地域がレベル2(不要不急の渡航は止めてください)へ引き上げられたとのことです。これにより、バッタンバン州におけるシャンティの事業地もレベル2地域に含まれることとなり、事業実施への影響についても言及がありました。
軍事衝突発生を知らされた12月7日は日曜日の午後でしたが、当初から情報の収集と共有、カンボジア事務所の対応方針の策定に注力をしました。また予定されていた訪問者の受入れをキャンセルするなど、通常の業務についての対応協議も行いました。その後被害が拡大するにあたり、組織として正式に緊急人道支援を行うことが正式に決定され、支援ニーズの把握など初動調査を始めました。菊池所長も実際にたくさんの人びとが多くの荷物を抱えて国境付近から内陸部へ避難する様子を目の当たりにし、紛争が拡大していく様子を実感したそうです。またカンボジア事務所の職員の安全の確保という観点から、安全管理手順の見直しと周知を行いました。

写真:避難民支援の概要
12月11日からバンテイミンチェイ州、バッタンバン州、ポーサット州の避難所を実際に視察、支援ニーズの確認を始め、それに基づいて15日から6か所の避難所に支援物資の配布を始めました。配布物資の内容は、お米などの食糧キット、石鹸、洗剤、女性用生理用品などの衛生用品キット、テント、蚊帳、就寝マットなどの生活必需品キットです。この初動調査及び物資支援はジャパンプラットフォームによる資金支援で行われました。
支援開始から10日余りたった12月24日に、事務所のあるバッタンバン市から南に約15kmのバナン郡のプノンサンパウ付近でタイ軍による空爆があり、現地職員の自宅待機及び邦人職員のプノンペン退避を余儀なくされました。その後29日に両国で停戦合意がなされ、避難所への支援も再開することができました。日々変わる避難所の状況やニーズを把握することに注力いたしました。年が明けて1月6日からは自己資金による教育支援活動も開始いたしました。
【避難民キャンプの様子】
続いてカンボジアのバッタンバン事務所の脇坂調整員より、実際に避難所や避難している人びとの様子について報告が行われました。
避難所はお寺や市場などをの施設を利用して設立されたものが多くありました。人々は土やコンクリートに直接シートを敷いて生活されていて、夜はかなり冷えるとのことでした。聞き取り調査を行うにつれて明らかになったのは、避難所の衛生面、特にごみの管理や処理、トイレやシャワーの問題でした。日に日に増える避難民に対して圧倒的にごみの処理頻度やトイレ、シャワーの数が足りていませんでした。ハエが発生したり悪臭が立ち込めるごみ置き場があったり、男女関係なく洗い場で服を着たまま水浴びをするなどの様子が見られました。また、ボランティア教員が1日1時間程度勉強を教えたり、自習室などがある避難所もありましたが、多くの子どもたちはやることもなく、所在なく過ごしている様子が多くみられました。

写真:避難民キャンプの様子
インタビューでは、多くの人々が避難してきて爆弾の標的になるのではないか心配であるとか、避難所に家族以外の知り合いがいなくて心細い、タイに出稼ぎに行っている家族と連絡がとれなくて不安であるというような声を聴きました。中にはインタビュー中に泣き出してしまう方もいらして胸が痛かったです。

写真:移動図書館活動の様子
このような中、シャンティ国際ボランティア会は自己資金でも独自の活動を行いました。シャンティの活動の原点とも言われる移動図書館活動を通して、子どもたちや周りの大人の緊張を和らげることができたらと、ささやかではありましたが自由読書、読み聞かせ、フェイスペインティングなどのアクティビティを行いました。幼児のお子さんから中学生くらいまでのお子さんまで幅広い年齢のお子さんが参加してくれました。また、親子で参加して一緒に読書をする光景も見られ、例えひと時でも楽しい時間が提供できたのではないかと思っています。
【今後に向けて】
ここから今回の緊急初動調査・支援から見えてきたもの、学び、また今後に向けて菊池所長から話がありました。
まず、この軍事衝突が昨年7月に続いて2回目であったことから、カンボジア政府、行政機関の管理構築体制が比較的早かったことが挙げられます。カンボジア内務省からの避難民数等のレポートも日時で更新され、国際機関やNGOの支援も迅速に開始されていたように思えます。またカンボジアの一般市民からの物資の支援も多くあったのが印象的でした。それでも避難所によってニーズは異なり、また衛生施設の不足や教育活動の不足は随所に見られました。
停戦合意後は行政による避難所の解体や集約が始まり、また避難民の帰還、復興へとニーズが変化しました。ただ、国境付近には不発弾があったり、家屋も壊れてしまって帰れないという人たちもまだいて、その人びとへの支援はまだ必要です。

写真:緊急対応における気づき
組織として、今回の緊急期の対応で重要だったと思われる気づきとしては情報収集と共有、事務所の方向性の周知、安全管理、日々変わる状況に対しての柔軟な対応、他機関との関係構築がありました。そして何よりも現地職員と組織のミッションの再確認を行い、アクションをとることで、実際に現場で活動する職員の不安を軽減することができたのは大きな学びでした。
今後に向けてのシャンティの活動ですが、避難所も減ってきてはいるものの、今残っている人々は避難が長期化する見込みです。特にカンボジア北部の避難所になりますが、その人びとたちのために教育支援も含めた支援活動を継続していきたいと思っています。また、通常の事業につきましても状況を見ながら順次再開・継続していきたいと思っています。
【まとめ・メッセージ】
最後に手束専門アドバイザーから、何世紀にもわたるタイ・カンボジア国境紛争の歴史的背景の説明がありました。

画像:手束専門アドバイザー
国境の未画定問題、政治的な背景、悪化した民族感情、避難民の帰還、国際詐欺問題など解決への困難な道のりが説明されました。またSNSによる世論操作なども最近の傾向として多く見られます。けれどもお互いの国民同士が暴力を振るうニュースはまだありません。日本はカンボジア、タイ両国とも長い友好の歴史があるので、平和的な解決に向けて役割を果たすことができることを願っています。そしてシャンティは、最後の避難民の方が自分達の村に、元の生活に戻るまで支援していただいきたいと考えています。
イベントの録画映像はこちらからご覧いただけます


