【開催報告】オンライン勉強会「災害時における民間団体の連携をめざして~宗教者の視点から~」
地球市民事業課の中井です。
10月31日に、第2回防災減災オンライン勉強会「災害時における民間団体の連携を目指して~宗教者の視点から~」を開催しました。
シャンティは今年より「宗教施設を活用した防災減災推進事業」を実施しております。その一環として国内災害における宗教施設の活用や宗教者の災害支援活動をテーマに勉強会を続けてまいりました。今回は2022年第2回目として、東日本大震災での支援活動を振り返るとともに、現在の課題や現地の人としての声を、登壇者の皆さまにお話をいただきました。
<登壇者>
馬目一浩(まのめいっこう)/阿弥陀寺副住職
福島県いわき市 浄土宗 阿弥陀寺 副住職
「災害支援ネットワークIwaki(DSNI)」会長、「浜〇かふぇ。」代表
稲場圭信(いなばけいしん)/大阪大学
大阪大学大学院教授(人間科学研究科・共生学)
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」代表、宗教者災害支援連絡会(宗援連)世話人、一般社団法人地域情報共創センター顧問、「災救マップ」(https://map.respect-relief.net/)開発・運営責任者
<報告>
「東日本大震災と2019年台風19号での地域支援活動」(災害支援ネットワークIwaki 会長 馬目一浩 氏)
まず初めに、馬目氏より大きく4つのテーマに分けてお話しいただきました。
- 1.東日本大震災での活動とそこから見えてきた課題
(浄土宗の取り組み・災害時のおける宗教者、宗教施設の持つ利点)
馬目氏曰く、東日本大震災まで災害支援には縁がなく発災直後は宗教者として何もできなかったと言います。2011年お寺の復旧檀信徒の安否の確認、寺院の被災状況の報告に追われ失意と挫折で3月を過ごし、4月からは何かできないかと災害ボランティアセンターに周りの僧侶と共に通い始めたことが活動の原点でした。
■浜〇かふぇ。
平成23年から地元の浄土宗青年会会員有志を中心に、いわき市社会福祉協議会や楢葉町役場と連携してこれまで約300ケ所で訪問・傾聴サロンを開催。
昨年度より、これまでの活動を引き継ぎ、代表として被災者支援をしながら新たな活動(宗内での防災・減災の啓蒙)の展開を目指している。
■ふくしまっ子smileプロジェクト
原発事故の影響により、野外で自由に遊ぶことが制限されていた、福島県在住の子ども達を対象に県外(関西地方)での野外活動や社会見学を実施。
(平成24年~令和元年まで、夏と冬の年2回、計15回)
宗教施設は避難所や復興の拠点として使用されることもあります。また、全国的なネットワークを平時から持っており檀信徒と関わる僧侶は地域の情報に長けていることが多く災害時の状況把握が円滑になる。そして、心のよりどころとしての存在、場所を提供することもできる可能性があります。
しかし、そのためには平時から他団体と協力やノウハウを身に着けることが必要です。東日本大震災の活動を通し、普段からの連携の大切さを痛感し、令和元年東日本台風で災害支援ネットワークIwakiの発足につながったそうです。
- 2.近年の被災地で行われていること
(令和元年東日本台風でのいわき市での取り組み)
東日本大震災当時の教訓から市民団体・行政・ボランティアセンターの情報共有会議が早期に開催されました。
東日本大震災より続けていた「浜〇かふぇ。」の活動は令和元年東日本台風では被災地域の困りごとを話すことができる場となり、県内外多種多様な支援団体へ支援をつなげることができるグレードアップした活動になりました。
- 3.災害時における宗教者と民間団体との連携事例
(令和元年東日本台風後のいわき市の取り組み)
災害支援ネットワークIwakiは令和元年東日本台風での情報共有会議を引き継ぐ形で現在、災害中間支援組織として活動を行っています。
【平時】
・2か月に1回程度の定例会を開催
活動を行う団体の報告や情報交換、減災・防災研修などを通していわき市で活動を行う多種多様な団体同士、信頼関係の構築目指す。
【発災時】
・発災状況を把握し、できるだけ早く情報共有会議を立ち上げる。
災害時外部支援が入りやすい環境を作ることを目的として場づくりを行う。
- 4.宗教者と民間団体との連携を目指して
独りよがりな活動にならないためには地元のつながりを持ち外へ発信することが重要だと言います。災害に特化した中間支援組織は全国各地にできはじめており、宗教者として多くの団体と関わっていくためには私たちから積極的に関わることが重要になります。
「近年の災害での宗教施設の協力」(大阪大学 稲場圭信 教授)
■社会福祉協議会と宗教団体との災害時連携
宗教団体のボランティアは長い年月をかけて支援に関わる中、近年では災害時社会福祉協議会の運営する災害ボランティアセンターと連携して支援活動を実施することが多くなってきました。
ボランティアバスなど大人数でボランティアを派遣し、宗教施設を宿泊先とし自己完結で支援に関わる団体も多いなどNPOにはない特徴のある宗教団体はボランティアとして受け入れた社会福祉協議会もほとんどが満足しているというデータの共有を頂きました。
■今年の災害
福島県沖地震から夏の水害を通して宗教施設が避難所として活用された事例を紹介いただきました。その中、避難者で満員になった寺院、少人数の避難者がいた寺院ともに宗教施設の避難状況が不明であったという課題もありました。
■近年の取り組み
第3回国連防災世界会議にて策定された「防災と宗教」クレド(行動指針)や自治体と宗教施設・団体との災害時協力を紹介すると共に災害時の連携・情報共有がまだ不十分であると問題提起を頂きました。
その中で、近年の災害時の避難所の課題は以下の3点であります。
- 1.避難所のスペースの不足
- 2.停電、通信が遮断
- 3.避難所情報の不伝達
大災害時には道路の寸断や避難所まで行くことができない事態を想定しての備え、寺社、防災士、自主防災組織、自治会町内会など連携の仕組みが必要です。
一つの連携ツールとして未来共生災害救援マップ(災救マップ)のご紹介!
避難所の状況の視覚化ができ、迅速な情報共有ができる災救マップでは災害時に役所職員の負担軽減ができ、誰でも簡単に使えることから多くの自治体で活用され始めているそうです。
質疑応答
Q)災害支援ネットワークIwakiの事務局体制はどのようになっていますか?
A)馬目氏:アドバイザーとして社会福祉協議会といわき市の自治体が入っているが民間が主体で運営。事務所は私のお寺にあり、市民団体の中から役職員は選出しています。
活動が広まっていくのは難しいが草の根的活動は市にも浸透しつつあるように感じます。
Q)東日本の際は県外ボランティアのコーディネートの苦労があったかと思うが、災害が頻発する現在は被災情報の集約や県内のボランティアを集めるということが難しいのではと想像します。
A)馬目:令和4年福島県沖地震では情報集約に3か月かかった。たくさんの災害を経験しているにもかかわらず教訓として残っていないこともあります。被災経験を次に生かす動きがさらに必要です。
Q)災害支援ネットワークIwakiに所属している団体はどのような人がいるのか
A)NPOや助産師の団体、消防士、宗教者など多様な方が関わってく出さっています。
さいごに (シャンティ会長の若林恭英より閉会の挨拶)
馬目氏からはこれまでの活動経験から平時の連携、信頼関係の構築が重要であると教えを頂きました。一つの核が地域的な広がりを持つ接着剤となる可能性を秘めています。
「宗教施設を活用した防災減災推進事業」は、シャンティの理念である「共に生き、共に学ぶ」の「共に学ぶ」という部分において国内災害支援に活きてくるものになるといいです。被災者の立場に立って支援活動を行っていく、お互いに支えあっていくということを再認識することができました。
稲場先生からは宗教施設の潜在力、可能性を示していただく中でまだ発揮できていない部分をこれから開拓しなければならないと感じました。
全体を通して次回以降の勉強会にもつながる内容になったかと思います。
本事業は独立行政法人福祉医療機構より助成頂き実施しております。
お問い合わせ
公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 地球市民事業課 中井
TEL:03-5360-1233
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