2023.10.06
開催報告

【開催報告】遊びや環境を通した学び-カンボジアでの幼児教育事業-報告会

イベントレポート
カンボジア

【開催報告】遊びや環境を通した学び-カンボジアでの幼児教育事業-報告会

9月20日(水)、シャンティがカンボジアにて実施している、幼児教育事業の報告会が実施されました。今回の報告会は、会場とオンラインのハイブリッド形式にて開催され、多くの方にご参加いただきました。

 

開催の挨拶

普段はカンボジアのバッタンバン事務所に勤務し、カンボジアの幼児教育の現場で事業に携わっているモンクラ職員が来日し、石塚職員の通訳を通して、事業の様子や事業を通して見られた現場の変化についてお伝えしました。

報告会の様子

 

トン・モンクラ

トン・モンクラ(カンボジア事務所 幼児教育事業 コーディネーター)
学生時代に農業経済・農村開発を専攻し、王立農業大学卒業後、2012年入職。「貧困や紛争、環境破壊などに苦しんでいる人々のそばに寄り添う」というビジョンを持って活動に取り組んでいる。

石塚 咲

石塚 咲(東京事務所 事業サポート課 チーフ 海外事業担当)
大学卒業後JICA海外協力隊に参加しマダガスカルで活動。民間企業に勤務後、シャンティ国際ボランティア会に入職。東京事務所でラオス、インドネシアでの開発、緊急支援事業実施のサポートに携わる。2019年からはカンボジアに駐在し、幼児教育事業を担当。2023年3月より現職。

 

事業報告

典型的な幼稚園の教室

写真は、カンボジアの典型的な公立幼稚園の教室の様子です。「小学校みたい」という印象を受けられる方も少なくないかもしれません。小さな子どもの背丈に合わない椅子や机を使っているため、じっとしていられず、また年齢に見合わない授業を行っているため、集中力が続かず落ち着きのない子どもたちの様子が見受けられます。

カンボジアには現在、幼稚園の教員を育成する学校が国内にたった一つしかありません。幼稚園のニーズは年々高まる一方で、教員不足から小学校教員が幼稚園を担当することもあります。しかし、研修制度が十分に整備されていないため、幼児の発達に即した指導方法が分からず、小学校と同じような「授業」をせざるを得ないといった状況もあります。

 

砂遊びをする女の子と教員

そのようなカンボジアの幼児教育の状況を受けて、シャンティは「遊びや環境を通した学び」を推進する取り組みを続けてきました。この「遊びや環境を通した学び」とは、幼児にとっての「遊び」は発達の基礎を培う重要な学習であり、幼児が主体的に身近な「環境」と関わり合う中で学べるよう工夫することが大切であるという考え方です。

写真は砂遊びをしている女の子と先生ですが、女の子は砂遊びから何を学んでいるでしょうか。砂の感覚を楽しんだり、どうやったら砂を固められるか考えているかもしれません。この女の子はその後お店やさんごっこを始め、先生のさりげない介入から、葉っぱをお金に見立てて遊び始めました。こうした行動から、女の子は五感を磨いたり、自然や社会、人とのかかわり方を学び取っているのです。

2018年、カンボジアの教育カリキュラムの改訂により、子どもの学びは遊びを通して行われるべきといった原則が示されました。一方で、その事例や実践の場は多くなく、現場でこの原則が応用されることは容易ではありません。シャンティでは、大きく3つの取り組みを通して、「遊びや環境を通した学び」の普及を行っています。

 

①教員向けガイドブック作成

①教員向けガイドブック作成

まず、教員が参考にすることのできるガイドブックを作成しています。先生にとって、「分かりやすい」「調べしやすい」「実践しやすい」をモットーに作成されており、様々な遊びや環境の作り方、遊びの要素がある活動においての先生の子どもたちとの関り方などが事例や写真付きで紹介されています。

 

②人材育成

②人材育成

幼児教育に携わる人材の育成もまた、「遊びや環境を通した学び」の普及に欠かせません。幼稚園の先生だけではなくカンボジアの教育行政関係者の方にも参画してもらうことで、事業を推進しています。また、右の写真は幼稚園の先生で、工作で作った手作りのカメラを手にしています。先生自身が遊び、楽しんでみることで、子どもたちが遊んだときにどんな気持ちになるか、どんなことを学べるか、一緒に考えてもらいます。

 

③幼稚園の活動の質の向上

③幼稚園の活動の質の向上

幼稚園で実施する活動がより豊かで質の良いものになるよう、様々な活動を提供しています。写真左は、草や木の実を使ってお店やさんごっこをする子どもたちの様子です。右は、木の棒や糸でできた釣り竿で、紙の魚を釣っている子どもたちの様子です。身の回りにある自然や身近な文房具から、子どもたちの想像力を掻き立て、子どもたち同士でコミュニケーションを取り合うことができるような様々な遊びができることを、紹介しています。

 

事業開始後の幼稚園の教室

その他にも、家具を修理しながら長く幼稚園で使ってもらえるよう、維持管理の方法もあわせて伝えるようにしたり、幼稚園に掲示する掲示物(ドキュメンテーション)の紹介や、メッセージツールを用いた親御さんとのやり取りの場づくりなど、幼稚園や親御さんも巻き込みながら、子どもたちにとってより良い環境になるような取り組みをしています。

こうした取り組みが功を奏し、幼稚園では少しずつ改善が見られるようになってきました。写真は、事業を通して教室内の環境を新たにした幼稚園の様子です。冒頭の「小学校みたい」だった教室とは一目瞭然で、子どもの背丈に合った家具や、子どもの五感を刺激するようなカラフルな装飾が見られ、楽しくのびのび遊べそうな雰囲気です。

 

交流プログラム

『おおきなかぶ』読み聞かせ実演

会場では、実際に事業の中で実施している活動を参加者に体験してもらおうと、『おおきなかぶ(福音館書店)』の読み聞かせが実演されました。参加者の皆さんには、「おばあさん」「孫」「犬」「猫」「ねずみ」になってもらい、「モイ、ピー、バイ!(クメール語でいち、に、さん!)」の掛け声で、一緒におおきなかぶを引っ張りました。かぶが抜けると、会場は温かい拍手で包まれました。

 

質疑応答

Q.幼稚園の子どもたちに起きた変化の中で、一番記憶に残っていることは?

A.子どもたちが、幼稚園に来たがるようになりました。幼稚園の環境が改善して、遊べるものおもちゃや絵本なども増え、幼稚園の中でも外でも遊べるようになり、楽しんでいる子どもたちを多く見られるようになりました。

 

Q.幼稚園に掲示する掲示物(ドキュメンテーション)の取り組みによって、変わったことや進歩はありましたか?

A.先生が子どもに目を向けるようになり、先生たちに活動を少しずつ良くしていこうという姿勢が見られるようになりました。先生が子どもの小さなつぶやきに耳を傾けるなど、先生と子どもの間で双方のやり取りが見られるようにもなりました。また、掲示物を他の人に見られる場所に掲示することによって、幼児教育の啓発にもつながっています。掲示を見て、親御さんもまた子どもたちが遊びを通して様々なことを学んでいると理解することができるようになりました。

 

Q.自分の気持ちをうまく表現することができない子どもや、先生とコミュニケーションを取るのが難しい子どもに対して、先生たちはどのように対応していますか。

A.例えば日本の幼稚園では、朝の振り返りの時間に子どもの意見を丁寧に聞くなど、子どもたちが様々な形で自分の気持ちを表現できるような機会が設けられています。しかし、カンボジアの幼稚園ではそのような機会が設けられていることも少ないため、子どもたちが自分の思いを関心を表現するということは、なかなか難しいように見受けられます。また、先生が子どもに質問をするときも、「はい」や「いいえ」で答えるような質問をしているケースも多く、子どもたちが自由に回答することが難しいということがあります。実はこの課題は、これから力を入れて取り組んでいきたい部分の一つでもあります。「遊びや環境を通した学び」が、こうした課題を解決するアプローチになると信じています。

 

Q.カンボジアの子どもたちの生活環境は、日本の子どもたちと比較すると、既に自然に囲まれ、直接体験の多いものではないでしょうか。それでも、五感を使うような活動を取り入れる必要性はあるのでしょうか。

A.確かにカンボジアの子どもたちは、身の回りに自然があり、例えば親御さんの営む農業に直接触れたりする機会も多いです。その一方で、それらの体験を子どもの学びや発達に落とし込めているか否かについては、少し懐疑的に感じています。例えば、自然と触れ合う日常もまた大切な学びなのだと、親御さんや幼稚園の先生も理解し、家庭と幼稚園が連携して子どもたちの教育に取り入れることができれば良いと考えています。今後も、幼稚園だけでなく、家庭や地域とも密接に協力しながら、事業に取り組んでいきたいです。

 

※この報告会は、聖心女子大学 グローバル共生研究所のご協力により実施されました。

※この事業は、国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業と日本の皆様のご支援により実施されています。

イベントの様子はこちらの映像からご覧いただけます