【アフガニスタン】人道援助の継続を
職員の無事を確認
報道されていますようにアフガニスタンでは、タリバンによって政権が制圧されました。
弊会のアフガニスタン事務所の職員の安全を確認していましたが、本日時点で、全職員の無事を確認しています。
今後に関しては、状況を注視しながら現地の関係機関と支援の継続について協議を開始しています。
突然到来した緊急事態
8月6日、タリバンが最初にニームルーズ州を制圧してからたった10日間程で全土を支配下に置き、8月15日には最後の主要都市と呼ばれていたジャララバードのある、ナンガハル県が無血開城されました。
そして同じ日にタリバンは首都カブールを包囲し、実質上、全土を制圧しました。
その後、日本時間16日早朝には、カブール首都の大統領府で勝利宣言を行いました。
米軍撤退が開始されてから、治安、政情不安が懸念されていましたが、まさかタリバンがこれだけ早くアフガニスタン全土を制圧するとは誰も予想していなかったと思います。
私たちは最悪の事態を想定してどのように対応するか準備を進めていましたが、その時は突然やってきました。
日本にいる東京事務所の職員と、カブールにいる職員で今後の安全確保や困窮する人々への支援をどのように行うか話していた時でした。
ある女性職員に「自宅周辺がタリバンによって包囲された」と家族から連絡が入りました。
職員は恐怖であふれ出す涙をぬぐいながら、急いで自宅に戻っていきました。
その後、政府関係者から事務所を後にするようにと正式に通達が入り、全員自宅待機となりました。
眠れない夜を過ごしている職員の顔は、疲れ切っていました。
あの時のタリバンとは違う
タリバンが私たちの事業地であるナンガハル県を陥落させました。
それは入念に計画されたとしか思えないような、平和的な制圧でした。
実は、制圧前には私たちの事務所にも避難するよう指示が入り、治安悪化の可能性に備えるよう助言が入っていました。
制圧直後、タリバンのスポークスマンは、むやみに市民、政府機関、援助機関を襲撃するものは断固として許せないと声明を発表しました。加えて、もしタリバンと名乗る者に不当な扱いや被害を受けた場合の通報窓口まで発表されました。
最悪の事態も想定していた私たちは安堵するとともに戸惑っています。
この間タリバンは幾度となく「あのタリバンとは違う」と声明を出しています。
人々はこの言葉に希望を持つしかない状態です。
16日の時点では「教育を含むすべての機能を中止する予定はないから安心するように」と声明が出されました。
ナンガハル県では、直面する人道危機にどう対応できるか、現地の援助機関とタリバン間での調整が開始されています。
しかし、実際に人々の安全と生活が守られるよう注視していく必要があります
安全な国への退避の支援を
一方で、国際社会を巻き込んだ紛争の傷跡は深く、この状況は現地の援助関係者にもリスクが及んでいます。
女性の権利向上に携わってきた多くの女性指導者、公務員、教員、援助関係者は、恐怖の中にいます。
現地では様々な憶測や噂が広がり、家族は未婚の女性の安全を守ろうと奔走しています。
この不安定な状況に人々は震え、家族で身を寄せ合うことしかできないのです。
すでに、州間の移動や陸路で隣国に逃げる道は閉ざされています。
空港に殺到する人々の衝撃な映像には胸が痛みます。
残された人々は、迫りくる危機に何とか助けて欲しいと悲痛な要請を私たちに上げています。
シャンティの職員の多くが元難民、あるいはその子どもです。
厳しい状況を知っている人たちです。そんな彼らはこれまで、日本からの支援で活動を行っていることをしっかり表明し、日本とアフガニスタンをつなぐ友好の懸け橋になろうと努力をしてきました。
治安の悪化により日本人がアフガニスタンに渡航できない中、日本人の思いをしっかりと現地の人たちに伝えてくれました。
日本とアフガニスタンの友好に奔走した多くの人たちを見放すことがあって良いのか、この数日間葛藤を続けています。
タリバンが安全の保障を表明し、一部の地域は平穏であっても、地域差や、個々人による状況の違いがあります。リスクが存在する今、一時的にでも希望者が安全な国へ避難できるよう日本、そして国際社会の援助を求めます。
人道援助の継続を
私たちが活動を開始した2001年、ちょうどアフガニスタンの復興が開始した時期のことです。
それまで続いた長年の紛争で、アフガニスタンはすべてを失っていました。
少数の男児をのぞき、ほとんどの子どもたちが学校に行くことができていませんでした。
しかし、この20年で約950万人以上の子どもたちが学校に通えるようになり、そのうちの39%は女児です。
学校の数は3,400校から1万7,859校まで増加しました。
女性を取り巻く環境も大きく変わり、社会進出も進みました。
少しずつではありましたが、復興に尽力をしてきた成果も見えてきていました。
そのような矢先の今回の出来事でした。
希望を失いかけた職員に、地域の宗教リーダーから電話が入りました。
「私たちはタリバンに同意することにした。あなたたちがこれまで地域のために援助してくれたことにとても感謝している。
そんなあなたたちに、何かあってはいけない。全力で守るので何かあったら言ってくれ」と。
眠れない日々を過ごしていた職員にとっては、勇気が出るメッセージでした。
「何も悪いことはしてないのだから、私たちは堂々としていよう」職員の一人がそう言いました。
長年の紛争による治安不安、干ばつや洪水などの自然災害、そして新型コロナウィルスにより国民の9割近くが貧困状態に陥り、住むところを追われた人々はタリバン制圧前の時点で50万人以上であると報告されています。
その6割は子どもたちです。
この数日でも更に増加していることが予想されます。
大きな混乱の中で、このような史上最悪ともいえる人道危機を国際社会は見過ごしてはいけません。
どうか、アフガニスタンを孤立させないでください。
再び忘れられることがないように目を向けて頂きたいと切に願っています。
アフガニスタンの復興、情勢安定は、国際社会、日本にとっても不可欠です。
以前、難民だった職員が話していました。
「子どものとき、難民キャンプの生活は絶望でしかありませんでした。食べることもままならず、毎日の楽しみも何もない。
私は、銃をもって私たちを支配する民兵たちを見て、闘うしか生きる方法はないのかもしれないと思っていました。
その時、どこかの国のNGOがキャンプに学校を作ってくれました。その学校の先生にとっても優しくしてもらいました。
とても楽しかったのです。アフガニスタンが復興するとき、私は銃を持つのではなく、教育を支援したいと思いました」
私はこういった子どもたちを絶やしてはいけないと強く心に誓いました。
混乱状況が続く中ではありますが、シャンティとして何ができるのか
現地の職員、関係者と協議を重ねながらその方法を探していきたいと思います。
事務局長
山本 英里