混迷を深めるミャンマー情勢にどう関わるべきか
2024年2月1日で政変から丸3年を迎えるミャンマー。
国内情勢は安定するどころか悪化の一途をたどっています。
2023年10月27日には、北部のラカイン州とシャン州にある「ミャンマー民族民主同盟軍」「アラカン軍」「タアン民族解放軍」 の3つの少数民族武装勢力が同盟を結び、国軍に対して大規模攻勢をかけました。これが引き金となり、特に北部シャン州などでは国軍側の劣勢が続き、国軍自身が弱体化しはじめていると報道されています。
それ以降の戦闘で国内避難民数は新たに66万人が増加し、全国で260万人に緊急人道支援が必要だと国連人道問題調整事務所(OCHA)は昨年12月に発表しました。
多数の勢力が複雑にからみあい内戦状態にある
多民族国家のミャンマーには135に及ぶ民族が存在しており、そのうち7割近くがビルマ族です。現状では、ミャンマー国軍と少数民族武装勢力、そして国民統一政府 の3つの政治勢力により、極めて複雑な絡みで内戦状態にあるといえます。専門家は、国軍が政変以降に国民の支持を失い、かつ経済的な落ち込みが極めて顕著なことから、3年が経過して前線の士気が低下し、下級兵士の離反が顕著になっていると分析しています。
一方で大小20ほどの少数民族武装勢力が国境周辺で活発に活動しているといわれていますが、それぞれの思惑は複雑です。今回の攻勢には主に中国と国境を接したシャン州の組織が関わっており、背景には中国との関係が強く働いています。また、 年明けには最大勢力のひとつであるカレン民族同盟の議長も「国軍を倒すためには武装闘争以外に道はない」と発言するなど、先行きは不透明です。武力では圧倒的に有利で平地の戦いには強い国軍ですが、ミン・アウン・フライン国軍司令官が政変以降で最も窮地に立たされていることは間違いないでしょう。
緊急人道支援の必要性
こうした状況下で、危機に直面した人々への医療や食料、水、シェルターなど緊急人道支援に関わる国際NGOへの期待は非常に高まっています。南北2,400キロに及ぶタイ側の国境付近でも空爆や地雷などの影響で避難民が増加しており、正式な数は発表されていませんが、既存の難民キャンプや移民労働者の生活地域では特に増えているとの情報です。タイ人の専門家からは、政権が変わったタイ政府が外交ルートを国軍のみという現状から民主派グループ との双方向に修正し、少数民族武装勢力とのパイプもしっかり保持しながら中国やインド、バングラデシュ、日本なども含め、国連やASEANを交えた平和構築のための枠組みづくりが喫緊の課題ではないかと言われています。また、今後の動向も含め、少数民族武装勢力 や国際NGOとの協力で北部メ―ホンソン とメーソット、南部国境からの緊急人道支援を模索すべきとの意見が出されています。
シャンティが果たすべき役割
今年はラオスがASEANの議長国を担っています。1月10日にはラオスのアルンゲオ元首相府相が早々にネピドーを訪問しましたが、「5項目合意*」があるとはいえ国軍に対する姿勢には各国に温度差があり調整力に疑問もあるとして、タイ独自の積極的な関わりが欠かせないとの意見です。
こうした専門家の意見やミャンマー国内の情勢、国際社会の動きなどを踏まえると、冒頭で述べた260万人を超す避難民やタイ国内の難民、さらにはタイや日本も含めて各国に強制移住を余儀なくされたミャンマー人たちには一刻の猶予もなく、私たちシャンティのようにこれまでミャンマー国内で10年、そしてタイ国境のミャンマー(ビルマ)難民キャンプや移民学校などで、20年以上活動してきた国際NGOの役割は極めて重要になっているといえます。
政変から 3年が経過した今、シャンティは原点に立ち返り、カンボジア内戦時にタイとの国境で経験した学びを思い起こす必要があるのではないか。そして、どのような情勢が待ちうけていようと、緊急人道支援はもちろん、今後のミャンマーに最も相応しい和平への模索と将来の国づくりを支えるためも、中長期的な教育支援活動を細くとも持続的に担っていく必要があると思います。
2024年2月1日
副会長 秦辰也
*政変直後の2021年4月24日、ジャカルタのASEAN事務局でASEAN首脳級会議が開かれ、議長声明で①暴力行為の即時停止、②平和的解決策のための関係者間での建設的な対話、③議長による対話プロセスの仲介、④人道支援、⑤すべての関係者との面談の5項目が合意された。
タイ国境ミャンマー(ビルマ)難民キャンプの様子(写真:川畑嘉文)
ミャンマー国内の孤児院訪問(右から二人目が執筆者の秦)
ミャンマーの子どもたち(執筆者が撮影)