2017.09.16
読み物

【タイ】オラタイさん~スラムの図書館からタイの外交官に

シャンティ国際ボランティア会は、1981年にタイ国内のカンボジア難民キャンプでの支援活動を開始して以来、35年以上、アジアの子どもたちへの教育支援や緊急救援活動を行ってきました。そんなシャンティが運営する図書館と出合い、“夢”をつかんだ一人の女性がいます。バンコクのスラム育ちのオラタイ・プーブンラープ・グナシーランさんです。

タイのスラム出身のオラタイさん

劣悪な環境の中、オラタイさんにとって図書館は、唯一の“心のオアシス”でした。たくさんの本や旅行記を目にするうちに「自分もいつかこのスラムを抜け出して、世界を見てみたい」と大きな夢を抱き、その夢を叶えたオラタイさんをご紹介します。

スラムでの暮らしは簡単なものではありません

現在、タイ外務省の一等書記官として活躍されているオラタイさん。首相からの指名で通訳を務めるなど、ロシア語の専門家として高い評価を受けているオラタイさんですが、幼い頃は教育を満足に受けられない環境で暮らしていました。オラタイさんが育ったバンコクの中心に位置する最貧困地区のスアンプルー・スラムは、狭い路地に板張りの家屋が並び、水道や電気、学校、医療などの設備や制度は一切ありません。「スラムでの暮らしは簡単なものではありませんでした」とオラタイさんは振り返ります。

両親は東北タイの出身で、お父さんは小学校4年生までしか修了していません。お母さんも本や文字とは無縁の生活を送っていました。生活のため、家賃のため、オラタイさんら3人の娘を学校に通わせるため、お父さんは港で日雇い労働を、お母さんは夜遅くまで惣菜を売って必死に働きましたが経済的に苦しい毎日でした。薬物、ばくち、売春、病気などが蔓延するスラムで、やがてお父さんは酒におぼれ、日常的に暴力を振るい、お母さんと激しいけんかを繰り返すようになります。

図書館は「貧困」という日常から抜け出せる聖域でした

オラタイさんが図書館で絵本と出会ったのは4歳のころでした。図書館はスラムにあるオラタイさんの家の隣に建てられました。昼間は学校、夜はお店や家事の手伝いがあり、睡眠時間も5時間取れるか、取れないか。その合間に訪れる図書館が心のよりどころでした。両親がけんかすると、図書館に逃げ込んだりもしました。

家が狭いため勉強するのはいつも図書館の2階。つらい生活から一瞬でも離れられる図書館は「過酷な子ども時代の中で貧困の日常から抜け出せるオアシスであり、幅広く知識を広められる場所だった」と語ります。

自分もいつかこのスラムを抜け出し世界を見てみたい

オラタイさんが大学1年生の頃の写真と、オラタイさんのご両親との写真
(左:オラタイさんが大学1年生の頃の写真 右:オラタイさんとご両親)

「毎日図書館に行くのが楽しかった。図書館は私に可能性を与えてくれた」と語るオラタイさんは、当時約1万冊あった絵本、小説、参考書などを端からすべて読んでしまいました。特に夢中になったのは旅行記でした。「自分もいつかこのスラムを抜け出して、世界を見てみたい」と。

その後、中学、高校時代にシャンティの奨学金を受け、高校2年生の時にアメリカへ留学。高校3年生で、フランス語スピーチコンテストで優勝しました。

高校卒業後は、タイの名門・国立チュラロンコン大学文学部に主席に近い成績で合格し、大学1年生の時に、倍率約100倍のタイ政府の外交官養成試験に合格しました。オラタイさんは「これで学費を払わなくても済む。両親の負担を減らせるし、好きな語学も生かせる」と喜びました。

スラム出身の私でも道が開けると思ったから

タイではロシアの専門家が少なく、スラム出身の私でも道が開けると思った

奨学金を受けながら大学を卒業し、その後、国費留学生として、モスクワの外交官養成大学に留学も果たしました。卒業後、外交官としてのキャリアをロシアでスタートさせたのです。

「タイではロシアの専門家が少なく、スラム出身の私でも道が開けると思ったから」。

オラタイさんは、タイ外務省のロシア専門家として、タイの王妃やタクシン元首相、プラユット首相といった国賓クラスの通訳をしています。タイのチュラポン王女とロシアのプーチン大統領の通訳も務めました。

タイ首相とロシアのプーチン大統領との会談の通訳を担当

英語、フランス語、ロシア語が堪能なオラタイさんは、現在、在モスクワのタイ大使館に勤務する一等書記官です。将来、専門のロシアと比較するため、アメリカやオーストラリア、または日本での外交官の仕事を希望しています。 

“小さな図書館”が育んだ“大きな夢”

スアンプルー・スラムでは、オラタイさんのようになりたいと大学を目指す子どもたちが増えています。オラタイさんを目指す子どもたちの姿は、家族や住民の希望となっています。オラタイさんも「スラムに住む子どもたちの力になりたい」という思いを常に抱いています。

子どもの頃、奨学生だったオラタイさんが奨学金の授与者として登壇したときの様子

「小さな図書館との出会いがなければいまの私はありませんでした。図書館は、誰でも学びたければ、学ぶ機会を与えてくれます」

両親のけんかから逃げるように駆け込んだ図書館は、いつしかオラタイさんの逆境に負けない不屈の精神を育む、かけがえのない場所になっていったのです。

オラタイさんのメッセージがテレビで放送されます

2017年9月18日(月・祝)にTBS「世界で勝手におせっかい in タイ」が放送されます。番組では、シャンティのパートナー団体「シーカー・アジア財団」が活動しているクロントイ・スラムと、同地区での移動図書館活動の様子が放送されます。

タレントの「あばれる君」が移動図書館を手伝う様子や、タイの外交官として活躍されているオラタイさんとシャンティが運営する図書館との出会いやコメントなどが放送される予定です。

放送局:TBS系列28局全国ネット
番組名:世界で勝手におせっかいinタイ
放送日:2017年9月18日(月・祝)午前9:55~10:50

登場コーナー:スラム育ちの外交官!日本にありがとう?! 幸せのお裾分け?

番組ホームページ:世界で勝手におせっかい!inタイ

ご協力のお願い

シャンティ国際ボランティア会では、子どもたちに本を読む機会を届け、人を育て、学べる場をつくるため、月々1,000円から図書館活動を中心としたアジアの子どもの教育をご支援いただく「アジアの図書館サポーター」を募っています。オラタイさんのように夢をかなえられるよう、一人でも多くの子どもたちが本を開き、未来をひらけるよう、ご協力よろしくお願いします!

アジアの図書館サポーター