【寄稿】難民の人々のそばに立つということ(秦 辰也)
年4回発行しているニュースレター「シャンティ」に寄稿いただいたシャンティと深く関わりのある方からの記事をご紹介します。
シャンティ国際ボランティア会 常務理事
秦 辰也 近畿大学国際学部教授
元シャンティ名誉会長 松永然道老師
1984年にシャンティに入職してから20年余り、タイ、ラオス、カンボジア、北朝鮮など、幸運にも松永さんとは何度も活動現場に同行させてもらった。松永さんは、仏教や曹洞宗の知識が浅い私にとても分かりやすい言葉で教えを説き、有馬実成さん(初代専務理事)との出会いやシャンティを設立した経緯、活動の意義について丁寧に語ってくれた。
松永さんは、ブラジルやハワイ、ロサンゼルスに長く滞在した経験があり、行く先々で出会った人に臆することなく英語でシャンティのことを紹介した。実践に裏打ちされたその姿は日本人スタッフばかりでなく海外のスタッフにとっても大変誇らしく、シャンティの精神的支柱としてとても大きな存在であった。
己を打ちのめした難民のことば
シャンティの原点を語るとき、松永さんは活動初期のある晩、カンボジア難民キャンプで出会った年配の人のことをよく話してくれた。
松永さんはあいさつを頼まれたものの、あまりの状況の厳しさにどうしようかと戸惑っていた。そして正直に「何をしたら良いのか分からない」と返事をしたという。するとその人はこう答えた。「何もしてくれなくていい。今、あなたは私の隣にいる。私たちに友人がいるんだ、と知らせてくれただけで大きな安らぎと励ましになった。今夜は、とてもうれしい」。
その一言に松永さんは、完全に打ちのめされたという。「迷いを捨てきれない己に対する甘さに冷水を頭からかぶせられた思いがした。ショック以外の何物でもなかった」と。
筆者(左)と故・松永然道老師(右)
国際協力のあり方
「国際協力」と言うと、つい上から物事を見てしまい、専門的な立場を意識して成果を出すことに囚われる。そして気づかぬうちに対象者や受益者といった感覚で相手と接してしまい、こちらの論理だけで勝手に状況判断をしようとする。今苦しんでいる人々のそばに立つとはどういうことなのか、松永さんは自ら常に原点に立ち返り、そのことを私たちに問いかけていたように思う。
本寄稿記事とニュースレターについて
本記事は、シャンティが発行するニュースレター「シャンティVol.292 (2017年秋号)」に掲載した巻末言「道」の内容を元に再編集したものです。※ニュースレター「シャンティ」は年4回発行し、会員、アジアの図書館サポーターに最新号を郵送でお届けしています。
シャンティは、子どもたちへ学びの場を届け、必要としている人たちへ教育文化支援を届けています。引き続き、必要な人へ必要な支援を届けられるよう、月々1,000円から継続的に寄付してくださる「アジアの図書館サポーター」を募集しています。