2022.11.22
読み物

私たちにできること

アフガニスタン
人びとの声

みなさま、こんにちは。

地球市民事業課の喜納です。

 

東京も木々が色付いてきて、秋を感じられる季節になりました。

 

個人的なことで大変恐縮ですが、シャンティへ入職して7カ月が経過しました。

NGO職員としてまだ至らないところばかりですが、現地の職員やご支援者様から様々なお話を聴かせていただき、学び、そしてそれを成長の糧としております。

また、周囲の優しい職員の方からの温かいサポートのもと、日々多様な業務に携わらせていただいております。

主な業務は、アフガニスタン国内での支援に関わるものです。しかし、昨年の政変以降、現地情勢の悪化により、日本に退避するアフガニスタン人が増え、そういった方々の相談を受けることが増えております。

私たちは、そんな方々の現状を知ってもらうために、今年の8月と9月にアフガニスタン関連のイベントを開催しました。

 

ご参加いただいた方からは、たくさんのコメントやご質問を頂きました。

 

その中でも、特に多かったのが

「厳しい状況に生きるアフガニスタンの人びとについて知ることができたが、では、

『私にできることは、何か?』」

という問いでした。

 

イベントの目的である「アフガニスタンについて知ってもらう」ことが達成できたことを嬉しく思いました。

しかし同時に、日本で暮らす多くの人たちが、アフガニスタン人のために何かしたいと考えてはいるものの、それを「見つける」ことができない現状があると知りました。

 

そんな疑問を持った人たちに対して、NGO職員として私は何ができるのか?

私のなかに、ひとつの問いが生まれた瞬間でした。

 

この記事では「私にできること」を主題にして、ある小学校の教員の方を取材しました。

日本に退避して来たアフガニスタン人との関わりの中で、言語や文化の壁にぶつかりながらも試行錯誤をつづけ、その過程で感じられるお互いの成長に価値を見出す、そんな実践について紹介します。

 

 

出会い

私が田中先生(仮名)とお会いしたのは、関東のとある小学校でした。

その日は新学期の初日で、私が学校を訪れたのは児童が帰宅し終えた放課後。

さっそく田中先生が、担当する2年生の教室に案内してくれました。

 

新学期が始まったばかりの教室は、児童を迎えるための準備が至る所に施されていました。その中で、特に私の目にとまるものがありました。

それが、下の写真にあるペルシャ語が書かれたポスターとアフガニスタン関連の絵本です。

写真中の書籍:『ランドセルは海を越えて』写真・文:内堀タケシ、ポプラ社
『学校が大好きアクバルくん』写真・文:長倉洋海、アリス館
『せかいいち うつくしい ぼくの村』絵・作:小林豊、ポプラ社
『カカ・ムラド – ナカムラのおじさん』原作:ガフワラ、著訳・文:さだまさし他、双葉社

東京都教育委員会 外国人児童・生徒用日本語指導テキスト「たのしいがっこう」ペルシャ語より抜粋

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/document/japanese/tanoshi_gakko_12.html

1学期の終了時に、田中先生はアフガニスタン人の女の子をクラスに受け入れることになると知りました。アフガニスタンから退避して来た家族の娘をどう受け入れたらいいか、夏休みの間にいろいろ考えたそうです。

 

その時の気持ちを、田中先生はこう語ってくれました。

 

「最初は、まぁ… 大変になるかもしれないっていう気持ちは持ちますよね。

情報として入っていたのは、日本語と英語は一切話せないっていうことでしたから。

親御さんも日本語は話せないということで。あと給食とか、イスラム教の食べ物に関することとかもあったので。

どちらかというと最初に『難しさ』の方がきましたね。」

 

田中先生が抱いた「不安」のような気持ちは、異文化や異なる言語を持った人と初めて関わる際、誰にでも生じるものかもしれません。

 

そんな先生の気持ちとは裏腹に、田中先生が勤める小学校では、当時日本語が通じない児童は在籍しておらず、イスラム教の文化や習慣を持ったアフガニスタン人の子どもを迎えることは、学校にとっても前代未聞のことでした。

 

 

当事者に寄り添って考える

こうして田中先生は、アフガニスタンからの転入生を迎える準備を始めました。

意外なことに、当初抱いた「不安」を払拭することは、田中先生にとってそれほど難しくなかったそうです。

 

「やっぱり、転入生って日本人でも緊張してしまうじゃないですか。

だからウェルカムな雰囲気が必要だと思ったんです。ましてやアフガニスタンから来る人って、きっといろんな思いがあって退避して来ているんだろうな、と思ったので…。

だからこそ、万全な体制に、できる限りやれることはやって、しっかり受け入れてあげようと思いました。」

 

そう考えた田中先生が実践したのが、上の写真にある絵本とペルシャ語・日本語・英語が書かれたポスターを教室に掲示することでした。

退避して来る子どもに対して何をしてあげることが正解か分からない、しかし、その子の気持ちに寄り添って考え、教師としてできることを実践した素敵な例だと思いました。

教室でインタビューを受けている田中先生(40代)

 

また、どうして絵本なのかという質問に対して、田中先生は以下のように返答しました。

 

「やっぱり生徒もアフガニスタンのこと知らないと思ったので。

それを知るうえで、本を置いておけば手に取って読むかなと。

アフガニスタン関連の本はあまり売っていなかったので全部ネットで注文したんですけど。」

 

シャンティの信じる「本の力」は、こんなところでも発揮されていることを実感しました。

 

そして迎えた新学期初日、小学校2年生の児童たちに、田中先生は、転入生のナディアちゃん(仮名)のことを話しました。

 

「今日からアフガニスタン人の子が学級の一員となるしかもその子は日本語が話せなくて、自分たちの知らない<文化>や<習慣>を持っている」と伝えた時、児童たちは少々緊張した様子だったそうです。

 

田中先生が子どもたちに語りかけた中で最も印象に残ったのが「皆さんはとにかく(ナディアちゃんに)関わってあげて、それが一番なんだよ」という言葉でした。

 

田中先生の準備と、クラスメイトたちの温かい歓迎のおかげで、ナディアちゃんは登校初日の放課後、迎えに来たお父さんに、その日学校であった出来事を、ずっと嬉しそうに話していたといいます。

 

登校初日にナディアちゃんを教室に連れて行った父親が撮った黒板の写真

 

 

「やってみないと分からない」

アフガニスタンからやって来た新しい児童を迎えて始まった新学期も1カ月以上が経過しました。

苦労することもありますが、日本人児童もナディアちゃんも、そして田中先生自身もいい刺激をお互いに受け、共に成長しているそうです。

 

田中先生は、ナディアちゃんが転入してから特に心に残っている出来事を話してくれました。

 

「(ナディアちゃんとの)かかわりの中で(印象に)残っているのは…、やっぱり何かできるようになった瞬間ですよね。例えば、字を書くにしろ、入って2,3日くらいで自分の名前くらいは書けるだろうと思って書かせてみたんですね。そしたら『他のことも書きたい』と言ってきて、その…、やる気がすごくて。

でも、どう説明しようかなと思って…、学習面のことってポケトーク(通訳機)だけでは説明しきれないんですよね。それで、どうしようと思っていると、本人が指でさしたりするので、字をきれいに書きたいってこと?と聞いたら『そうだ』と言って。

それで、私が平仮名を書いて、彼女が書き写すっていう作業をして、それで授業のめあてを板書したりだとか。」

 

「あと、やっぱり日本語で話したことも頑張って理解しようとしていますね。よく周りを観察しているんですよ。普段日本語で説明した時に、これは難しいなと思ったらポケトークで補足説明するんですけど、それをしないで、できちゃうことが結構増えてきています。例えば、『今日はこういう風に並びます』って説明した後に、他の子は並んだ時に間違えたりしているんですけど、ナディアちゃんはちゃんと並んでいるとか。(笑)」

 

このような経験を共有してくれた田中先生の背景には、教員としてのやりがいを「子どもの成長をその時々で感じられる」ことだと位置づけ、「ちょっとしたことが大きな感動に繋がる」と話してくれたことに帰するのではないかと思いました。

 

当然ながら、日々の学校生活の中で「思い通りにいかないこと」や「難しいこと」もあるそうです。

 

「やっぱり国語は難しいと思いますね。物語を読んで、この登場人物がどう思っているかを書くとかっていう。物語の内容をまず教えないといけない、でもポケトークだけだと教えきれない。

[…]

本人がやる気がある分、やっぱ書きたいっていう気持ちがあるので。しかも書きたいってなると(私を)呼んでくるので。その時に説明しきれないっていうか、それが一番難しいですね。」

 

他にも、文化面での考慮を要した出来事もあったそうです。

 

「体育着の着替えですね、それがどうかなって(心配でした)。最初カーテン閉めて(男女を分けて)、だけどそれでもダメだったんですよ。

でも、そしたらタオル、プールの着替えで巻くようなタオルでなら着替えできるんじゃないかって考えて。今では、教室の中で着替えることができている。まぁ、いろいろできるんだなって。多分2年生なんで、まだ子どもなんで、大人よりは柔軟かなって。」

 

田中先生の話から分かるように、先生は日頃起こる困難な出来事も教員としてのやりがいとして意味づけ、ナディアちゃんとの関わりから生まれる経験を前向きに捉えています。

田中先生は、お話の中で「意外といけちゃう」とおっしゃっていました。

このことばは、異なる言語や文化を持った人と話してみた時に、私たちが感じる、<意外と共通している部分が多い>、<分かりあうことができる>などといった気づきに近いものではないでしょうか。

 

 

私たちにできること

アフガニスタンで起こった昨年の政変の後、多くの人びとが、日本を含む海外への退避を余儀なくされました。ナディアちゃんの家族もそうやって日本にやって来ました。日本への退避や日本の学校での就学は彼らに残された数少ない選択肢の一つだったのです。

 

そうしてやって来た日本で、ナディアちゃんは田中先生とクラスメイトたちに出会いました。

彼らはこの偶然とも呼べる出会いの中で、お互いを尊重し、時に立ち止まり考え、共に生きる道を探し続けています。

 

今、多くのアフガニスタン人(もちろん他の外国籍の人も)が様々な理由を抱え日本に退避してきています。

残念ながら、たくさんの退避者が日本での生活に不安や苦労を抱えています。

法律や制度を改善していくことで、彼らが過ごしやすい国に変えていくことが必要とされていますが、それもなかなか進んでないようです。

 

だからこそ「私たちにできること」を考え続けることに意味があるのかもしれません。

 

「私たちにできること」とは?

この問いで始めた今回の記事、誰にでも実践できる普遍的な回答を見つけることはできませんでした。

しかし、ナディアちゃんの気持ちに寄り添い、彼女の成長のために尽力する田中先生の実践を聴いていると、私たちの持つ<思いやり>こそが、「私たちにできること」の土台なのかもしれない、そんなヒントをもらったような気がします。

 

「やっぱり、ナディアさんが笑顔でいてくれるのが一番いいな、っていうのがありますね。」

 

ナディアちゃんの学級での様子を話している時の田中先生のことばです。

ナディアちゃんが書いた絵(右にアフガニスタンの国旗が描かれている)

 

地球市民事業課 喜納

 

今年の8月と9月に実施したアフガニスタン関連のイベントの様子は、下記よりご覧いただけます。

【開催報告】オンラインベント「アフガニスタンの子どもたち・人々の暮らしと支援活動の今 ~政変から一年を迎えて~」(8月15日開催)

【開催報告】オンラインイベント「日本で暮らすアフガニスタンからの退避者の実情にせまる」(9月4日開催)