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2022.09.09
開催報告

【開催報告】オンラインベント「アフガニスタンの子どもたち・人々の暮らしと支援活動の今 ~政変から一年を迎えて~」

アフガニスタン
イベントレポート

タリバンがアフガニスタンを実効支配してから、8月15日で1年が経ちました。

昨年の政変以降、アフガニスタンの状況は著しく変化しています。女性の権利・女子の教育の問題はもちろんのこと、干ばつの影響による食料価格の高騰、それに伴う食料危機は非常に深刻です。2400万人が緊急人道支援を必要としています。タリバン暫定政権の樹立後、国際社会からの支援が届きにくくなり、このままだと5歳未満の子どもの2人に1人が栄養失調で命を落とすといわれています。

支援を再開・継続するために、まずは日本のみなさんに現地の実情を知っていただきたく、シャンティの加盟するJANICアフガニスタン・ワーキンググループは、オンラインイベント「アフガニスタンの子どもたち・人々の暮らしと支援活動の今 ~政変から一年を迎えて~」を開催いたしました。

以下、登壇者の紹介です。

 

・米山泰揚 氏 世界銀行 駐日特別代表

1995年に大蔵省(当時)に入省以来、国内関係(予算編成、債務管理等)・国際関係(国際開発金融機関(MDBs)、気候変動ファイナンス、二国間ODA等)、各方面の様々な業務に従事。このほか、外務省(中東アフリカ局:1999年~2001年)、アフリカ開発銀行理事(2004年~2007年)、国際通貨基金(IMFアジア太平洋局:2013年~2016年)に在籍。また2019年に日本が議長国を務めたG20財務大臣・中央銀行総裁会議にも従事。東京大学法学部・フランス国立行政学院(ENA)卒業。2021年8月より現職。

・Behishta Qaem 氏 セーブ・ザ・チルドレン アフガニスタン・ジョウズジャーン事務所副代表

2014年からセーブ・ザ・チルドレンのアフガニスタン・ジョウズジャーン事務所に勤務。ソーシャルワーカーや、モニタリング評価オフィサー、プロジェクト・コーディネーターなどを経て、2022年1月にアフガニスタンにあるセーブ・ザ・チルドレンの事務所初の女性副代表に就任。

・山本英里 氏 シャンティ国際ボランティア会 事務局長兼アフガニスタン事務所所長

2001年にインターンとしてタイ事務所に参加。2002年、ユニセフに出向しアフガニスタンで教育復興事業に従事。2003年より、シャンティのアフガニスタン、パキスタン、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、カンボジア、ネパールでの、教育支援、緊急人道支援に携わる。アジア南太平洋基礎・成人教育協議会(ASPBAE)理事。2019年より現職。

・乗京真知 氏 朝日新聞 国際報道部次長

小学生のころブラジルで暮らした経験から大学で国際関係論を専攻し、2006年に朝日新聞入社。宮城や愛知で主に事件や災害を取材し、2014年に米留学。2016年からイスラマバード支局長、2019年からアジア総局員としてパキスタンやアフガニスタン、東南アジアなどで取材。2021年から現職。

・松本直美 氏 特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF) モニタリング・評価専門家(教育・子どもの保護)

2003年より3度にわたりアフガニスタンに赴任。また、バングラディシュ、カンボジアおよびスリランカにおいて、NGO、JICA、国連の立場から、子どもの教育、成人・青少年の識字や職業訓練の支援に携わる。国際開発学・労働経済学修士。2019年から現職。

 

【「足元の経済情勢と人道・開発のネクサス」 米山 泰揚氏】

はじめに、世界銀行駐日特別代表の米山さんに、マクロな視点から見たアフガニスタンの経済状況の変化と国際機関特有の支援の在り方・難しさについてお話いただきました。

下の表は一人当たりの収入(米ドル)、折れ線は経済成長率を表したものです。「2021年の政変前も低い収入と経済成長率が示されていますが、政変後は両方とも急激に下がっていることが分かります。この所得水準の激烈な低下は人びとをさらに困窮した生活へと追いつめています。」

米山さんによると、2021年の政変以降、食べ物を買うお金さえない人たちが37%までに急増しました。

このような現状があるにもかかわらず、一方でアフガニスタンへ支援を届けることは非常に難しくなりました。

国際機関である世界銀行は、政府として認められていない国に対して当局を経由した支援は行えません。しかし、アフガニスタンのような「人道上の危機」が存在し、多数の人が飢えに苦しみ教育が受けられない国に対しては、支援を継続する必要があります。

世界銀行は、暫定政権を経由した支援ができなくても、他の機関やNGOを通した人道的な支援を行うべく、アフガニスタンへ10億円の援助を部分的に再開させるという方針を明らかにしました。

 

<緊急人道支援から開発援助へ>

上述したような状況下で、困窮している人々へ人道的な支援を早急に届けることが非常に重要です。しかし、それと同時に人道支援から開発、中長期的な支援へ“シームレス”に繋げていくことが求められています。

「難しい課題は山積みですが、人道支援を継続しつつ、その後につながる教育や経済開発についても国際社会として考え、アフガニスタンに関与し続けていく必要がある」と米山さんは話します。

米山さんによると、アフガニスタンは経済的な自立にまだ課題があるとのことです。アフガニスタンの人々が自分の足で立ち、自らの国の目指す姿を考察し、それに向かって進んでいけるような開発援助は、今後のアフガニスタンの成長のためには欠かせません。

マクロな視点からアフガニスタンを見た時に明らかになる現状や課題は、緊急人道支援を行うシャンティのようなNGOにとっても大変重要なものだということが、米山さんからの発表で再確認できました。

 

続いて、人々の生活へと焦点を降ろし、現地で活動を行っているNGO団体から、それぞれの分野別に政変から1年後の変化について発表いただきました。

 

【「子どもたちの生活の変化」 Behishta Qaem氏(ビデオ登壇)

「政変後の親の失業、食料価格の高騰は、子どもたちの生活に大きな影響を与えています。
人々は、食料を購入するお金がなく、子どもたちが空腹に苦しんでいます。」Behishtaさんはビデオ登壇の中でアフガニスタンの子どもの生活について語りました。

Behishtaさんは子どもを持つ家庭へインタビューを行い、そこから分かった子どもの状況や親の悩み、苦しみを共有してくれました。「空腹をしのぐために、パンを水に浸して子どもに与えています。また、子どもの健康においても大きな懸念があります。薬を買うお金、また子どもが病気になってしまった時の診察費、それどころか病院に行くための交通費もありません。教育(特に女子教育)の停止は、アフガニスタンの子どもの将来のみならず、児童労働や児童婚へ拍車をかける一部の要因になってしまいました。」

BehishtaさんはCommunity-Based Education (CBE)を使った対応が早急に必要だと訴えました(CBEのプログラムに関してはシャンティの他のブログでも掲載しておりますので適宜ご参照ください:https://sva.or.jp/news/260722-2/)。

また、Behishtaさんは彼女が直接子どもに行ったインタビューを紹介してくれました。

インタビューの中で、子どもたちは彼ら/彼女らの夢を語ってくれました。

「平和な国に住み、学校に行くこと」

「平和な環境の中で生活を送り、何も恐れることなく学校に行き外を歩きたい」

「きれいな水が欲しい、自分と家族のための十分な食べ物が欲しい」

このような子どもの夢を実現させるため、Behishtaさんは国際社会に、アフガニスタンの子どもへの支援を継続してほしいと訴えます。支援が停止してしまうと、たくさんの子どもたちが命を失いかねません。

 

Behishta さんのビデオ登壇に続き、セーブ・ザ・チルドレンは、子どもへのインタビューの様子を紹介しました。

”セーブ・ザ・チルドレンのインタビューを受けた10代の少女は、女子教育が禁止される前までは、将来に大きな夢を持っていました。しかし、彼女も今では学校に行くことができません。その代わり、綿畑に働きに出かけ、そこで稼いだお金(1日22セントほど)で家族の生活の足しにしています。

また、ある家庭では、経済的に困窮し、自らの娘を年上の男性と結婚させる手配をせざるを得ませんでした。それ以降、娘は口数も減り、外に出ることもなくなりました。母親は娘のことを非常に心配しております。”

アフガニスタンにはこのような状況に苦しむ子どもたち、そして子どもの苦しむ姿に悩む家庭がたくさん存在します。セーブ・ザ・チルドレンのビデオ登壇を通して、国の未来である子どもたちへの生活や教育の支援の必要性がさらに明らかになりました。

 

【「女性の権利・女子教育の変化」 山本 英里氏】

タリバン暫定政権の樹立後、女性の権利や女子教育に関する問題は世界から注目を集めてきました。山本さんからは、女性の保護や女子教育のための事業から得た経験や知見を基に支援の必要性について発表いただきました。

 

<政変前の女子教育と女性の権利>

山本さんは、はじめに政変前のアフガニスタンの女子教育における成果について話しました。「アフガニスタンの教育分野において、2001年からの日本を含む国際社会の復興支援で、様々な成果を得ました。復興支援前は0人だった女子生徒が、17年間で、全体で10人に4人の割合に増えたことはアフガニスタンの女子教育において大きな前進だと言えます(中等教育レベルでは女子が約35%、大学は24.6%)。それだけでなく、女子の就学率の向上に伴い女性教員の割合も2007年から2018年にかけ36%も上昇しました。しかし、これだけの改善が見られたものの、政変前も不就学児童・生徒が370万人以上(6割が女子)と、実はまだまだ教育支援が必要な状況が見られました。」

 

また、政変前の女性の就労についてもお話しいただきました。「下のグラフからも分かるように、2013年のJICAの報告では、都市部に行くほど女性の就労率が高くなっていたことが分かります。また、2013年の報告時点では全ての省庁で(差は見られるものの)女性公務員が存在していたことが分かります。特に右のグラフの一番下に見られる女性省では約半分が女性職員でした。残念ながら政変後、女性省は機能していません。」

<政変後の女性・女子の生活>

政変後は、女性・女子に対しての制限が厳しくなってきております。「政変直後、タリバン暫定政権は女性の権利を保障するような発表を行いました。しかし、現状では、女性に対する制限がどんどん厳しくなっています。“マハラム制度” “ブルカ着用の復活”はそれを象徴しています(地方では政変前もこのような習慣は残っていました)。
また、2021年11月時点で、中等教育に女子が実際に通えているのが確認されているのは7/34県に留まっています。2021年9月のタリバンの発表において、女子教育に必ずしも否定的ではないとの見解があったものの、現在全国レベルで中等レベルの女子教育は残念ながら再開されていません。」

 

<シャンティの支援>

このような状況下でもシャンティは女性・女子への支援を継続するように努力しています。

 

山本さんの発表後、現在アフガニスタン女性の保護事業に従事している方々より、シャンティの現地女性スタッフ、また、子ども図書館の事業スタッフに「現地の女性の声」としてメッセージを頂きました。

女性1(写真左)「女性への制限が非常に厳しくなっています。仕事もなく、子どもを育てる術を失い将来への不安から精神的に参っている女性がたくさんいます。」

女性2(写真右)「このように厳しい状況下でもアフガニスタンの女性、女子のために働けることが幸せです。日本をはじめとする世界中からの支援に感謝すると同時に、これからも支援を継続していただけることを願っています。」

 

【「食料危機の深刻化」 乗京真知氏】

政変後、邦人のアフガニスタン入国がさらに厳しくなっている中、乗京さんは、ピースウィンズジャパンのアフガニスタン支援現場を訪問しました。本イベントではその時の現地の様子を報告していただきました。

 

<食料不足の深刻な問題>

食べ物が足りない」乗京さんは訪れるほとんどの場所で常にこのことばを聞いたそうです。

乗京さんが現地で見た“ナン”を売っているお店の窓口には、張り紙がされており、そこにはタリバンより「ナンの値段を上げてはいけない」との指示が書かれていました。小麦粉の価格が高騰しているため、その店では値段を変えずにナンのサイズを小さくする対応を取っているとのことです。

乗京さんは、「その店を取材している間、ひっきりなしに子どもたちが“ナンを分けてほしい”とお店に来ていた光景が印象として強く残っている」と話されました。

 

他にも、乗京さんが同行したピースウィンズジャパンの現地職員が支援の意義や衛生啓発をしている様子を動画や写真を使って紹介してくれました。

現地の支援者に対して支援の難しさについて尋ねたところ“誰に支援をしたらいいか、不公平感が出ることが一番つらい”と、おっしゃっていたとのことです。

支援をする側として、裨益者の選定は特に難しい問題です。シャンティの現地職員を含め、現地の支援者は、どの家庭に援助を届けるべきかの事前調査や調整、裨益者感でトラブルが起こらないための説明に常に尽力しています。

 

<タリバンも村の子ども>

乗京さんが紹介された写真の中で、一番印象深かったのが、タリバン少年兵士への取材です。

写真の中で、2人の少年兵士は銃を持って門番のように立っていました。彼らは3年前にタリバンに入ったとのことです。月額3000円支払われるという約束だったのですが、その給料は10カ月間未払いです。

そんな過酷な状況であるのにもかかわらず、彼らは“アフガニスタンの貧しい人を助けてくれてありがとう。日本のみなさんに感謝します”と乗京さんに向かってまっすぐな目で言ったそうです。

さらに乗京さんは、このタリバンの少年兵士に今後やりたいことを聞きました。彼らの答えは、“実家の畑を耕して、結婚して家庭を持ち、家を建て親を喜ばせたい”というものでした。

彼らのこの言葉が、「40年以上戦乱が続く地で、血を流してきた若い人たちの思いを代表した声だと感じた」、とのことです。

 

【パネルディスカッション:われわれ日本人としてできることとは…】

それぞれの登壇者の発表後、モデレーターの松本さんを迎え、パネルディスカッションが行われました。

事前に頂いた質問や、当日の質問への回答の中で活発な議論が展開されました。

 

参加者からの質問で多かったのは、「私たちにできることは何か」というものでした。

本イベントへの参加者はNGO関係者を含め、教員や教授、学生といった、様々な視点を持った方たちでした。そんな多様な背景を持った人たちが「自分にできること」という共通の問いを持ち知恵を出し合って協議を重ねることは非常に重要なことです。

上の問いに対して一つの回答案として現地で活動しているNGOを支援するというのがあると思います。

山本さんは、アフガニスタン支援を長年続けるシャンティを代表して、こんなに厳しい状況だからこそ、日本が支援を続ける意義を紹介してくれました。

山本「今、アフガニスタンのために、苦しい状況でも諦めず現場で支援を続けている現地の人の多くは、自分が子どもだった時に支援を受けた人びとです。遠い昔の記憶で、短い間の支援だったかもしれませんが、そのことを鮮明に覚えています。そういう一つの支援が、一人の子どものその先の人生を変えていき、国を良い方向へ導くことに繋がります。NGO団体として、できることを継続することで、その先の未来につながると信じています。」

 

続いて、乗京さんは、日本人として支援をする際、本人も採用している、寄付や支援をする際の「考え方」について紹介してくれました。

「自分の興味のある分野や応援したい人がいる団体を探すということ。そうすることで、その団体の活動を追ったり、支援対象国についてもっと知ろうとしたり、持続性を持った支援ができる、そのような支援が長続きすることで、現場への良い影響ももっと大きくなっていくと思う。」

また、このような寄付や支援を考えていえる日本人の皆さんに向けて、NGOは、「アフガニスタンを支援しないといけない理由」を端的に寄付者に伝えなければいけないと乗京さん話します。

 

他にも、日本人としてできることは、「日本政府にアフガニスタンへの支援の継続を訴え続けること」だと米山さんは話します。

「政府として承認されていない力が実権を握っている国はアフガニスタン以外にもたくさん存在します。だからといって支援を止めるのではなく、その国の国民、子どもたちの未来のために(それは日本や世界の未来とも繋がる)付き合っていく必要があると思います。」

 

本イベントには100人を超える方に参加いただきました。

とても多くの人に政変後のアフガニスタンの状況や支援について知っていただけるだけで、大きな一歩だと思います。しかし、やはり現地で困窮した生活を送っている人たちには、いち早く支援を届けなくてはいけません。

 

シャンティは、これまで培ってきた経験と知見を基に、引き続きアフガニスタンへの支援を行ってまいります。また本イベントで学んだ、支援の必要性を端的に伝える力、日本政府への働きかけについても取り組んでまいりたいと思います。

 

地球市民事業課 喜納昌貴