人びとの声にどう向き合うのか?
こんにちは。
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の菊池です。
先月、6月20日は世界難民の日でした。
世界難民の日のシンポジウムに参加した東京事務所の職員が、そのシンポジウムの報告を海外事務所にも共有してくれました。
その後、事務所を越えてメールのやり取りがあったのですが、その中で、日本では、現在も東日本大震災の被災者約10万人が避難生活を余儀なくされていること、アフガニスタンでは、アフガン難民が食料、住居、医療や教育へのアクセスがなく大変苦しんでいること(アフガニスタンは、シリアに続いて世界で二番目に多く難民が流出している。)、さらに、職員の親戚や友人が自爆テロに巻き込まれて亡くなったこと、その家族が身の回りの物をすべて売って国を出ざるを得なかったこと、学齢期の子どもたちが勉強を続けたくても続けられない状況があることを綴ったメールがあり、それらを読んで大変心が痛みました。
私がいるタイ・ミャンマー(ビルマ)国境では、現在も20万人以上の難民、国内避難民がいます。状況は日本やアフガニスタンとは異なりますが、人々が抱える課題は同様で、食糧、医療、教育へのアクセスの問題、そして何よりも「見えない将来」に大きな不安を抱えています。約10万人が住むタイ側の難民キャンプでは、ちょうど帰還が始まりつつあるところですが、まだ多くの住民が帰還を望んでいません。しかしながら、難民キャンプに対する国際支援が近年著しく減っており、NGOの事業撤退も相次ぎ、社会サービスがキャンプ運営、医療、教育、水・衛生など、あらゆる分野で縮小しています。
先日、図書館事業の四半期会議があり、難民キャンプを訪問した際に、図書館活動にもアドバイスを下さっている50代の住民の方と話をする機会があり、今の状況に対するやり場のない気持ちを聞きました。
「今、国際機関やタイ政府は、今が帰るときであり、私たちの将来は、私たちが決められると言っていますが、どうしたらそう言えるのでしょうか?私は何も持っていません。ミャンマーIDもない、タイIDもない、難民登録(※)もありません。私は、どこへ行ったらよいのでしょうか?私が昔住んでいた村はもうありません。今も国境のミャンマー側に住む多くの人びとが土地の搾取や地雷、医療や教育へのアクセスがなく、苦しんでいます。こうした状況の中でどうやって帰れというのでしょうか?難民キャンプの中にいても、食糧配給量は年々減り、難民キャンプ内の運営委員会の給与も先日軒並み30%カットになりました。今手元にあるのは、米と豆だけです。時々野菜は手に入るかもしれません。私は何も肉が食べたいと言っているわけではありません。毎日、毎日、米と豆を食べ、その日を生きるのです。私は自分の将来について考えたくありません。答えはないのですから。ただ、ストレスと不安を感じるだけ。だから、その日のことだけを考えるのです。その日を生きることだけ。」
(※タイ政府及びUNHCRによる最後の難民登録があったのは2005年。それ以降に難民キャンプに来た人々は、難民登録はされておらず、”New Arrival” というステータス。)
現場で働いていると、こうした人々の思いを聞くことがあります。そして、こうした思いを聞くたびに、正直、自分がとても無力に感じます。そして、自分はこの声にどう向き合えばいいのだろうといつも考えさせられます。
色々考えを巡らせますが、こうした声に対する直接的な答えを持っていないことに気づかされます。私自身未熟なところがたくさんありますが、私ができることは、心を開いて話してくれる人々の話を真摯に聞くこと、そして、自分が置かれている立場で、できることに取り組むことに尽きると思っています。
難民キャンプのコミュニティ図書館は、住民の方から、学習、情報収集、娯楽などそれぞれのニーズに合わせて、安心して過ごせる場所だとよく聞きます。ストレスや不安が膨らむ難民キャンプで、そうした場所を増やしていこうと現地職員や難民キャンプの図書館関係者と話し合い、昨年から移動図書箱の配布地域を拡大し、難民キャンプの住民の誰もが本を手に取ることができる環境づくりを推進してきました。移動図書箱が配布された地域では、週末に図書館青年ボランティアによるおはなし会が開催されています。青年たちの中には、将来の見えない状況に悲観して、アルコールや薬物に手を出す者もいますが、図書館活動に参加する若者は、その活動の中にやりがい、生きがいを見出しているようで、積極的に、楽しんで活動に参加しているようです。また、コミュニティ図書館は、情報共有センターの役割も担っているので、難民キャンプ内の情報チームやUNHCRとの協力の下、ミャンマー国内や帰還に関わる情報の提供をしています。さらに毎月図書館に配架している図書の選定においても、ストレスマネジメントや心理学、ライフスキル向上に関わる図書も含めています。
最終的に人生を切り開いていくのは、その人自身に他なりませんが、図書館の活動を通じて力になれることはないかと現地職員や難民キャンプ内の図書館関係者と一緒に考える毎日です。
「難民を誰一人取り残さない」、先日のメールのやり取りの中で、何度もこの言葉を見ました。難民があげる声にどう向き合うのか、いつも自分に問われていると感じています。
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 菊池