2017.12.18
読み物

第六回「図書館にいる人びと」

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ
人びとの声
図書館

こんにちは。
今年最後の「図書館にいる人びと」をお届けします。今年の夏からブログにてこの連載を始めましたが、約半年間こうして図書館を利用するさまざまな人びとの紹介を続けてこられたのも読者の皆さまがいてのことです。いつもシャンティブログを読んでいただき、誠にありがとうございます。
さて、今月ご紹介する3人はメラウ難民キャンプとヌポ難民キャンプからです。一人は、図書館の一般利用者、ちょうど本を返しに来た時にお話を聞くことができました。そしてもう一人はキャンプ内のすべてのコミュニティ図書館の活動を日々見ている図書館担当者、そして、コミュニティ図書館の図書館員さんです。

●「図書館にいる人びと」のストーリー
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「私はサ・ジンといいます。私は第一地区に住んでいて、家族は4人家族です。私は主婦で、子供の面倒を見なければなりません。私の夫は、日々の収入のためにキャンプの外に働きに行っています。そして私は家に残り、子どもの世話をするのです。息子一人と娘一人です。娘は5歳、そして息子は14歳です。実は私の息子は障がいを持っているので、彼のことはとても心配です。そのため、私は特に彼の面倒を見る必要があるのです。私は職業訓練の裁縫教室を受講したいと思っています。しかし、私にはその時間がありません。それも、私の息子を近くで見守っていなければならないからです。時には自由な時間がありますので、図書館に本を借りに来ています。本は私がより多くの知識を得ることを可能にします」。
―2017年9月、ヌポ難民キャンプにて


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「私の名前はレイ・ベアです。メコンカ難民キャンプに2004年から移り住み、それからこのメラウ難民キャンプに移動しました。キャンプでは、シャンティがコミュニティ図書館を支援しています。そして私は図書館担当員として2017年の3月から今日に至るまで働いています。私は読書がとても好きです。読書からたくさんの知識を得ることができます。本についてさらに知ることができます。歴史について更なる理解を得られます。そして有名な人びとや世界中の有名な場所について知ることができるのです。そして、私はキャンプ内の学校を本によって支援できることも非常にうれしく思っています。シャンティの支援する本は先生や学生、そしてキャンプ住人にとても役立っています。もちろん私自身にもとても有益です。本は私が新しい学びを得ることを可能にしています」。
―2017年10月、メラウ難民キャンプにて


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「私の名前はノー・ア・ライ・ムーです。メラウ難民キャンプに住んでいます。7人兄弟です。私はキャンプ内の第三高等学校の12年生を終えました。卒業後は、当初は図書館のアシスタントとして働いていました。図書館員の一人が第三国定住のための健康診断に行かなければならず、そしてその後は2カ月間の産休を取っていたからです。私は2016年1月12日に図書館員として働き始めました。図書館員の仕事は私にとってとても有益です。図書館で私は役に立つ図書をたくさん読んでいます。たくさんの子どもたちが図書館に来るのを見るのもとてもうれしいです」。
―2017年10月、メラウ難民キャンプにて


●難民と働くことについて
今回紹介した3人の図書館利用者の人びとを含め、仕事や職業について触れたストーリーがこれまでのブログにも、いくつかあったかと思います。そこで、難民と働くことについて知ったことを個人的な視点から共有したいと思います。
このタイ国境難民キャンプで暮らす難民は、そのほとんどが、いくらかの食糧配給やその他の社会サービスを受けています。しかし、多くの人びとが収入を得るために働き口を探し、仕事をしています。収入源のない生活は非常に厳しいと聞いています。それは、例えば食糧配給では、新鮮な野菜や果物は含まれていないこと、生活のためには食べ物以外にも衣服などが必要なこと、学校に行くにも学費が全くの無料ではなく、ましてや高等教育に進学するとなるとキャンプ内でもいくらかは授業料がかかること、などの状況があるからです。

そして、私たちに働く権利があるように、難民という状況にいる人びとにも働く権利があります。それは、難民条約の中で規定があるのみならず、世界人権宣言やその他の国際人権法上でも保障されている権利です。経済的な自立と自由を一人ひとりに保障するためにも、そして尊厳ある人間としての生活を送るためにも欠かせないものだからです。

そこで、まず働く機会、労働市場へのアクセスや職場を自ら選べる環境について見てみます。タイ国境付近のミャンマー(ビルマ)難民キャンプの住人の主なキャンプ内の雇用先は、支援団体のNGOで働く、キャンプ内の学校の先生として働く、キャンプ内組織の職員として働く、キャンプ内で食べ物を作る、売る、もしくは衣料品などを作る、売る、などが挙げられます。シャンティの支援するコミュニティ図書館で図書館員として働いている人びとは、NGOで雇用されている人びとの中に含まれます。しかし、近年のキャンプ内の支援活動の縮小により、この雇用先も減少してきているのが現状です。このような中で、キャンプ外に出て収入源を確保しようとする人びともいます。とはいっても、難民キャンプの出入りはタイ政府によって厳しく管理されており、キャンプ外で働くことは公式には認められていません。しかし、生活、家族を支えるために欠かせない収入源を得るためにも、特に働き盛りの男性を中心として、キャンプ外に働きに出ている人がいる現状があります。

次に働く職場の環境についても考えてみました。勤労に関する権利は、働く機会へのアクセスのみならず、労働環境についてもそれが公平で安全であるべきことを規定しています。先ほどキャンプ内での主な働き先について並べましたが、これらの職から確保できる収入はとても限られているのが現状のようです。そのような状況もあり、よりよい働き先を求めてキャンプ外に出るという動きもあるようです。しかし同時に、キャンプ外で働くことにも大きなリスクが伴っています。正式には難民がキャンプ外で働くことが認められていないために、万が一、不法労働が見つかれば、逮捕され、送還されるというケースも考えられます。そして、法の保護の外で働いているために社会保障も受けられないのみならず、労働搾取の対象となるリスクも大きいといえます。

雇用と労働環境の問題は、この難民キャンプにとどまらず、世界各地の多くの地域においてさまざまな形で課題となっていると思います。そして特に弱い立場に置かれている難民の状況に限って考えてみても、とても重要な課題として顕在化していると思います。
一夜では解決しようもない問題ではある一方で、国際社会において難民と労働・雇用の問題が認識され、議論され、少しずつでも改善の動き、解決への試みがみられていることも事実です。例えば2016年9月に開かれた難民・移民に関する国連サミットでは難民・移民の保護を強化することについて国際的な宣言がなされ、またその翌日に開催された難民に関するリーダーズサミットでは、難民の働く機会へのアクセスを向上させることも具体的に取り組む分野として話し合われています。難民条約の締約国ではないタイ政府も、このような議論に参加し、ミャンマー(ビルマ)から逃れてきた人びとへの技術訓練と収入源の機会を確保することについて言及しています。これらの動きを少しでも効果的に推し進め、誓いや目標を現実化していくことが求められていると思います。

国際的な条約によって定義された人権と現状の間にある差はまだまだ大きいです。しかし、その差を共に認識しあい、言葉にし、それを埋めるための方法を考え実行していくことが、すでに皆で合意した条約や宣言をより有効に活用していくことにもつながると思います。

実際に事業に関わる中で、難民の働く現状と雇用の課題は教育の現場とも絡み合っていることを実感します。まだまだ勉強不足ではありますが、教育分野での支援活動に携わるにあたっても、分野や領域を超えて相互依存しあう様々な課題にも目を向けて物事を考える必要があると感じています。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

参考資料
Brees, I. (2008) Towards sustainable livelihoods: Vocational training and access to work
on the Thai-Burmese border. ZOA issue paper no.1. Maesot, Thailand: ZOA Refugee
Care Thailand.

UNHCR, Summary Overview Document: Leaders’ Summit on Refugees (Nov. 10, 2016)

Zetter, R., & Ruaudel, H. (2016). Refugees’ right to work and access to labor markets–An assessment. World Bank Global Program on Forced Displacement (GPFD) and the Global Knowledge Partnership on Migration and Development (KNOMAD) Thematic Working Group on Forced Migration. KNOMAD Working Paper. Washington, DC: World Bank Group.

ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所
田村