2025.11.09

世界の絵本を読んでみよう 「コーケー寺院」カンボジア

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ
世界の絵本を読んでみよう
絵本
連載企画

シャンティ国際ボランティア会は、良質な本が少ないアジア各国・各地域で独自に制作した絵本を出版しています。子どもたちに質の高い絵本を提供できるよう、現地の作家やイラストレーターを対象とした専門家による研修を実施したり、少数民族たちに口頭で伝承されてきた民話などを絵本にまとめる活動を行っています。

今回は2012年 カンボジア「コーケー寺院」をご紹介します。

 

 

1.むかしむかしある時、この村では雨が降らない日々が続きました。
村人たちは困り果てた末にみんなで森へイモを掘りに行きました。そこには1人の女の子も参加していました。少女は皆と一緒に森の中で食べ物を探しましたが、歩き続けたためとても喉が渇きました。しばらく歩き続けると、少女は遠くの方に白い象がいるのを見つけました。

 

2.少女は像の足跡に水が溜まっていることに気付きました。とても喉が渇いていた少女は足跡に頭を近づけ、手で水をすくい飲みました。すると、少女はそれが象のおしっこだったのです。少女は森を離れ自宅に帰ると、自分が妊娠していることに気付きました。夫がいないのに妊娠した少女を村人は皆怪しみ、村から追い出しました。

 

3.しばらくして、彼女は大変美しい女の子を出産しました。とても貧しい家庭だったため友達から「父親がいない貧乏娘」と呼ばれました。女の子は泣きながら母の元へ行き、泣きながら訴え、父親のことを尋ねましたが、母はいつも黙ったままでした。しばらく経ち、母親は病気にかかってしまいました。命が長くないと思った母親は、娘に真実を話し、その後命を落としました。


4.真実を聞いた女の子は、旅に出てついに白い象の王と出会います。白象の王は娘のことを「スラトン・サストラ」と呼び、とても可愛がりました。父親の白象は、娘のために寺院を建立し、暮らすように言いました。寺院から娘を出したくない父親の白象は、階段を作らず、建物を支える柱も1本しか造らせませんでした。「私のかわいい娘のスラトン・サストラよ、髪を外に垂れしておくれ。お父さんにお前の髪を梳かしておくれ」と呼びかけかわいがりました。

5.キジは、アリ塚をつついて食べ物を見つける鳥でした。鳥たちは毎日、キジと一緒にアリ塚から食べ物を取らなければなりませんでした。何日かたつと、みんなはくちばしが痛くなり、キジに合わせられなくなりました。

鳥たちが再び新しいリーダーを求めたので、長老たちは話し合いの末、オウチョウがリーダーにふさわしいという結論に達しました。

 

6.ある日、このことに興味を持った王子は、寺院に近づき、白象が娘を呼ぶのを待ちました。いつものように父親の声を聞いた娘が顔を出した姿に、王子は一目で娘に恋に落ちました。娘に近づきたい王子は、ある日父親に成り代って言葉を唱えました。スラトン・サストラは父親だと思い、髪を上から垂らし、王子は娘の髪をつたって登り、娘を寺院の外に連れ出しました。


7.何もしらない父親の白象は、いつものように娘に髪を垂らすように言いました。しかし、いくら待っても髪が垂れて来ないのです。心配になった父親は寺院の周辺を必死に探しました。そして、ついに父親が王子の家にたどり着いた時、娘は家の中に隠れていました。
娘と王子は思い直し、2人で父の前にひざまずき、「私たちをお許し下さい。2人で暮らすことをお許しください。」と伝えました。父親の白象は大粒の涙を流し、「君たちの将来が心配だ。2人で力を合わせてがんばりなさい。」と言い、その場を去りました。父親の白象はその後、失望からコーケー寺院の後ろに倒れ込み、命を落としました。現在、コーケー寺院を訪れると背後に丘があるのがわかります。この丘を木が覆う様子は、象が横になっている姿と似ているのです。
また、丘の北部には旗が掲げられています。この旗は、白象の王様が命を落とした場所として、人々の間に言い伝えられています。


「世界の絵本を読んでみよう」シリーズ

本記事は、シャンティが発行するニュースレター「シャンティVol.322 (2025年11月号)」に掲載した内容を元に再編集したものです。

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