2024.11.12
読み物

【特集】ミャンマーでの10年

「シャンティ」特集記事
スタッフインタビュー
スタッフの声
ミャンマー
図書館

ミャンマーでは2011年、半世紀以上続いた軍事政権から民政に移行し、あらゆる面で民主化が進みました。

シャンティは教育状況の改善を目的とし、2014年にヤンゴンとピーに事務所を開設。僧院学校改善事業、公共図書館改善事業、学校に行けない子どもの支援事業、絵本・児童図書出版事業から活動を開始しました。

2021年には国軍による政変が起こり、市民生活は再び脅かされています。そうした中で歩みを続けてきたミャンマーでの10年間を振り返ります。

 

ミャンマーでの活動の成果

学校建設

学校校舎の建設や整備費用は本来、教育予算から捻出しますが配分が非常に少なく、政変以降は教育予算自体も縮小されています。シャンティはこれまで老朽化した僧院学校や公立学校を対象にこれまで30校建設してきました。新校舎のおかげで、子どもたちは安心して学ぶことができています。

図書館活動

これまで、シャンティは78の図書館・図書室を設置しました。学校の敷地の規模に合わせて教室を図書室に改修する場合と、独立した図書館を建てる場合があります。研修会には949人が参加し、授業でも絵本を活用する方法や、子どもたちが楽しめる絵本の読み聞かせ方法などを学びました。

絵本・紙芝居出版

これまで、シャンティは26タイトル15万2,228冊の絵本、7タイトル1,062部の紙芝居、5タイトル4万2,000冊の翻訳教育図書を出版しました。シャンティが活動を開始するまで紙芝居を見たことがない教員や子どもが多く、初めて紙芝居を見た子どもたちは目をキラキラさせながら、お話を一生懸命聞いていました。

学ぶ喜びを知って

めまぐるしい政治情勢の変遷の影響を受け、ミャンマーでは市民生活も激しい変化の波にさらされてきました。シャンティでは、ミャンマーの僧院学校に対しても、校舎建設や図書館設置を支援しています。僧院学校に通っている子ども、孤児院で育ち現在は教員として働く方、シャンティの職員に、現在の想いを聞きました。

ナンチャンモーさん

12歳。農業を営む両親と妹の4人家族。お気に入りの本は『風をつかまえたウィリアム』さ・え・ら書房

私は、紛争の頻発していた町で生まれました。両親は、私が安全な場所にある学校に通えるようにしてくれました。2015年に孤児院学校に来てから、家に帰ったのは一度だけです。初めて来た時は全学年が木造校舎で勉強していて、授業に集中できませんでした。図書館もありませんでした。

自分たちの教室ができてからは静かに勉強ができるし、読書好きの私にとって図書館はとても便利です。普段は朝と放課後に図書館に通い、行くたびに3冊は読みます。読書をしたり住宅デザインを描いたりする時間が幸せです。

将来の夢はデザインエンジニアになること。もっと発明や科学に関する本を読んでみたいです。

ドーウィンパパーさん

教員。高校を卒業後、2022年に教員になり現在4年生を担当。2025年には大学に進学して東洋学を専攻する予定。好きな本は『ふしぎなたけのこ』福音館書店

私は幼いころに父を亡くしたので会ったことがありません。母も病気がちだったので、8歳の時に孤児院に来ました。孤児院で育ち、2022年に教員になりました。

幼いころは、人に頼らず自分の力で生きていこうと思っていました。当時は粗末な小屋でしたが、新しい校舎はとても快適で、初めて見た時は幸せな気持ちになりました。特に女子生徒にとって安全で便利になりました。くつろいで過ごしたり、快適に学んだり、訪れた人が休息を取ったりできるようになりました。

教育は、自立した人生を送るために重要です。子どもたちには、人生を平和に生きるために、明るく聡明に育ってほしいと思います。

ヤンナイさん

 

ミャンマー事務所シニアコーディネーター。民間企業勤務やタイ国境地帯での教職を経て、2016年シャンティに入職し、活動の中核を担う

ミャンマーは過去10年、政治・経済・教育などあらゆる面で大きな変化を遂げました。特に教育においては、教師中心から子ども中心主義に変わりました。シャンティの活動を通じて、子どもたちは絵本に親しむようになり、教師たちは図書館運営の知識や技術を身に付けました。絵本・紙芝居は出版を重ね、作家、画家、編集者たちの技能も向上しました。シャンティは地域社会や当局から、教育のために活動する国際NGOとして市民権を得ています。

2021年の政変以降、状況は悪化しNGO活動も制限されていますが、子どもたちへの教育文化支援は急務です。これからも読書を愛し、創造的な思考ができるような教育を受けてほしいと願っています。

 10年を迎えたミャンマーでの活動

ミャンマー事務所長 中原亜紀 

「次の会議があるため、報告は10分で」。支援活動を開始した2014年、所管省庁に図書館活動の四半期報告を行うため、ヤンゴンから車で片道約5時間かかるネピドーに出張した際に言われた一言です。新たな国で図書館活動を行う上で、ある程度の覚悟はあったものの、さすがに激しく落ち込みました。しかし、ミャンマーでの図書館活動の意義の高さを期待していたため、今は我慢の時だと自分に言い聞かせていたことを思い出します。

公共図書館での児童サービス改善や小学校への移動図書館活動に取り組んだ3年間。その後、学校図書館へと活動は広がり、2019年、公共・学校図書館それぞれの所管省庁との協働による「おはなし大会」が開催されました。参加した図書館職員、小学校教員による「読み聞かせ」に見入る子どもたち、真剣に得点をつける審査員(所轄省庁関係者)たちを目にして、ようやくこの日がやって来たと感慨深かったのを覚えています。

こうした変化は、現地職員をはじめ、これまで関わったすべての関係者がミャンマーにおける図書館活動の発展に尽力くださった結果であり、心から感謝を申し上げます。これからの5年、10年は今まで以上に困難が待ち受けていると思いますが、ミャンマーの子どもたちの未来に向けて、教育支援を絶対に止めないという職員たちの想いと共に、活動の継続を願うばかりです。

【プロフィール】
1998年シャンティ入職。タイ、東京、ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所での勤務を経て2014年からミャンマー事務所の所長を務める。
(写真撮影:川畑嘉文)


特集「ミャンマーでの10年」

本記事は、シャンティが発行するニュースレター「シャンティVol.320 (2024年11号)」に掲載した内容を元に再編集したものです。

ミャンマーでの10年はこちらからご覧いただけます

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