2022.07.07

【特集】クーデターから1年。ミャンマーの今

「シャンティ」特集記事
スタッフインタビュー
スタッフの声
ミャンマー
ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ
図書館

2011年の民政移管以降、民主化へのあゆみが進んでいたミャンマーで、2021年2月、国軍によるクーデターがおきました。自由と民主化を求めて抵抗を続ける市民に、国軍は武器を向け、これまでに多くの犠牲が出ています。

ミャンマーの現状や、これまでシャンティがミャンマーで取り組んできたこと、そしてこのような状況下でも子どもたちの学びを支えたいと活動する職員たちの想いをお伝えします。
(ミャンマー事務所長 中原亜紀)

 

ミャンマーの子どもたちの学びの場を途絶えさせないために

クーデターから1年が経った今、街を見渡せば日常が戻って来たかのように感じます。商店やレストランなどは通常営業を行い、人々や車も行き交っており、本当にクーデターは起きたのか、今もその渦中にあるのか、疑ってしまいます。

しかし、デモを続けている人たち、拘束と拷問、軍と市民の戦闘、軍への密告者と市民との殺し合い、村々を狙った空爆や焼き討ち、国内避難民の大量発生、ジャングルなど過酷な環境下での避難生活、といったニュースが日々SNSで伝えられています。

街中のあちこちにバリケードや警備ボックスが置かれ、銃を持った軍や警察による監視も続いています。ただ置いてあるだけであっても銃口は歩く人々に向いており、私も何度か通り過ぎる場面がありましたが、さすがに緊張しました。こうした暮らしの中で人々はどれほどの恐怖と不安を抱え生きているのか、これからも耐え続けなければならないのかと思うと胸が痛みます。


空港敷地に入る前のチェックポイント

 

2019年タイ・ミャンマー国境のカレン州でタイからの帰還難民支援を開始しました。事務所開設や職員雇用など準備には苦労しましたが、ミャンマー側で難民キャンプから帰還した人たちへの支援ができる、シャンティとして長年の願いが叶う喜びがありました。民族の軋轢や対立を超えて共存できるミャンマーを作り上げていってほしい、そこに少しでも貢献できる活動をシャンティとして関わっていける、そんな希望を見出していました。

2014年から開始したミャンマーでの事業もようやく軌道にのり、まいてきた図書館活動の種が芽を出し、ミャンマーの子どもたちのために図書館の木をしっかりと育てていこうと関係者と手を取り合っていました。世界中で新型コロナウイルスが蔓延し、活動の遅延や一部中止などさまざまな影響を受けました。

いつかこの事態は終わる、今は我慢の時だと思っていましたが、軍事クーデターにより一瞬目の前が真っ暗になりました。活動が出来なくなるのか、これまでの蓄積は無くなってしまうのか、共に歩んできたスタッフたちはどうなるのか…時間の経過と共にいろいろなことが頭をよぎりました。


新しい校舎で学ぶ子どもたち

 

2021年2月1日以降に失われた命は1,500人以上にものぼり、今なお12,000人が拘束され40万人以上が避難民となっています。(政治犯支援協会データより)平和的な抗議デモを続けてきた市民に軍は銃弾やロケット砲を撃ち込み始め、更には抗議デモ参加者だけではなく、人命のために行動を起こした医療従事者や小さな子どもたちまでもが標的にされました。2022年1月末現在、少なくとも114人の子どもが犠牲になったと報告されています。(国連報道官発表)

クーデター以降、私たちに突き付けられたのは軍事政権下での活動を継続するか否かの判断でした。組織として継続の意思があったことは間違いありません。しかし支援の必要性があってもミャンマー人職員無しでは不可能です。活動の継続は軍事政権との関わりを持つことを意味し彼らがノーと言えばシャンティとしては継続を断念するしかありません。

今後について何度も話し合い、残念ながら離れた職員もいましたが、活動を継続していくという結論に至りました。子どもたちの学びの場を途絶えさせてはいけない、特にシャンティの図書館活動はミャンマーには不可欠だと職員たちは強い意志を見せてくれました。シャンティマインドと言っていいか分かりませんが、彼らから力をもらいました。

正直、出口は見えず、不安が募ります。しかし子どもたちの未来に待ったはない、今できることを継続していくことがミャンマーの未来につながると信じています。


設置した学校図書館

 

ミャンマー事務所で働く職員の声をお届けします。

人の命より権力が大切に扱われている

「軍事クーデターへの恐怖で日常は一変しました。ミャンマーの至る所で破壊行為が繰り返されており、地域の安全を守るために私は近所の人と一緒に地区の夜間警備を行っています。友人や家族との会話ですら、今の状況に関する話題に対しては非常に慎重にならざるを得ないのです。1年経過しましたが状況は不安定なままです。軍事政権は再三にわたり人びとをあざむいてきました。私たちは皆、自分たちの国で囚人になっているようなものです。

現在は政情不安により図書館は閉館しています。子どもたちが教育の機会を失ったことは非常に大きな損失です。絵本が人びとの涙と埃にまみれて泣いているような気がしてなりません。

日本のみなさま、私たちの国のように発展途上の国では教育が最も切迫して必要とされています。教育への支援なしでは、この国の将来を考えることはできません。今ミャンマーでは子どもたちの命が存続の瀬戸際にあります。この点だけは忘れないでいただきたいと思います。子どもたちは地球に住む全ての人々の希望です。私たちが命を全うする前に、子どもたちの面倒を見るのは私たちの責任です。現在、ミャンマーでは暴力が勝っているように見えますが、長期的な視点で見れば、非暴力が勝利すると信じています。」

トータ
ミャンマー事務所 カウンターパート渉外担当
2014年入職。8年間小学校教員として勤務した後、メディアコーディネーター、ツアーガイドとして勤務。

悲しみと不公正をもたらしている軍事クーデター

あの日から日常生活は変化しました。毎日恐怖に怯えながら生活をしています。町の中にはいくつもの検問所があり、そこではスマートフォンやSNSをチェックされ軍事政権に反対する投稿がないかを確認されます。検問所でスマートフォンのチェックを拒否した人が殺害されたケースも多くあります。軍事クーデターは最も深刻な人権侵害です。市民を守る法律はもはやありません。2011年の政権交代以降5年間は、私たちはさまざまな夢を抱くことができました。この国が更に発展していくのを楽しみにしていました。しかし、軍事クーデターが皆の夢を奪い、あらゆる分野でミャンマーを破綻に追い込んでいます。

1年が経過した今も、状況は悪化の一途をたどっています。国の至る所で毎日のように爆発や戦闘が繰り返されています。経済活動は停滞し、日用品の価格が2倍に高騰するなど深刻な経済危機に陥っています。軍事クーデターにより、多くのNGOが撤退しましたが、支援へのニーズは高まる一方です。どうか皆さまからの継続したご支援をいただけますと幸いです。私たちはこれまでも、そしてこれからも皆さまへの感謝を忘れません。

ティン・ミャ
ミャンマー事務所 アシスタント・プロジェクト・コーディネーター
幼少期から本や物語に慣れ親しみ、読書の楽しさや重要性を実感。大学卒業後、2016年にシャンティ入職。

 

今こそ地域に根付いた活動が必要

新型コロナウイルスの感染が拡大していますが、軍は対処しきれていません。医療施設は十分に機能せず、医療従事者も拘束されているため治療を行う人が不足しています。また、新型コロナウイルスの感染や治安への懸念から子どもたちを学校へ行かそうとはしません。

このような状況下でも、寺院学校のように子どもたちが不安を感じずに規則正しく普段通り学校に通い友人らと集まれる場所で、シャンティは活動できると思います。そうすることで、政情不安によって学校に通えていない地域の子どもたちも教育サービスを受けられるようになると信じています。

ソトゥ
ミャンマー事務所 プロジェクトスタッフ
複数のNGOでの勤務を経て、カレン州のコミュニティリソースセンターの事業担当として2020年に入職。

 

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中原 亜紀
ミャンマー事務所 所長
1998年入職。タイ・バンコク事務所でスラム地域開発事業を担当した後、ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 所長、東京事務所海外事業課 課長、ミャンマー事務所 所長、シャンティ・ミャンマー国境支援事業事務所 所長を経て、2022年1月から現職。

写真:川畑嘉文

 


特集「クーデターから1年」

本記事は、シャンティが発行するニュースレター「シャンティVol.315 (2022年春号)」に掲載した内容を元に再編集したものです。

クーデターから1年、ミャンマーの今

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