ポーランドで1年を迎えて
こんにちは。
海外緊急人道支援を担当しています、芦田です。
私は、2022年8月よりポーランドに駐在し、主にウクライナ、ポーランドでの支援に関わってきました。ちょうど駐在1年が経過するこのタイミングでポーランドでの生活や気づいたことを振り返ってみたく思います(本ブログはあくまで個人の感想です)。
-ポーランドの印象 –
私がポーランドに駐在をして非常に興味深いと思ったのは、ポーランドの地理的、歴史的な背景による移民の流れです。ポーランドのワルシャワでは、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ジョージア、カザフスタン、アゼルバイジャン、ベトナムなど旧ソ連国や共産圏を構成していた国々から来た人たちによく出会います。もちろん、アメリカ、フランス、スペインから来た人たちもたくさん見かけますが、ロンドン、パリ、マドリードなどの西欧諸国の主要都市とは雰囲気が異なります。ポーランド語や英語が話せなくてもロシア語で会話が成り立ってしまう様子などに出くわすと、今まで私が住んできたいわゆる西欧諸国とは全く違う、という印象を私は受けました。旧共産圏としてのこれらの他国との社会的な繋がり、現在のEUにおける社会経済の玄関口など、欧州のほぼ中央に位置しているため、様々なネットワークが存在しています。
-ウクライナ戦争の影響-
ウクライナへの全面侵攻以降、ポーランドは欧州の安全保障の最前線としての役割でフォーカスされることが多いです。米国やEUおよびNATOの支援のほとんどは、ポーランドを経由してウクライナへ供給されるため、軍事的な拠点としての役割の重要性が増しています。また、ポーランドにとってウクライナ支援が持つ意味という点では、人道的側面よりも、安全保障の脅威としての対ロシア(ベラルーシ含む)の色が強いように感じます。旧ソ連国家からの圧政に苦しんだ歴史もあるためか、ロシアのウクライナ全面侵攻に対する危機感が凄まじく、ポーランド国内におけるロシアの影響を排除しようとする動きが非常に活発です。ポーランド政府による、ロシア人の入国制限、ロシアの影響受けた個人を公職から排除可能にする法案の成立など、侵攻が始まってからの政府の対応をあげればきりがありません。
-コミュニティの声-
このような多様な社会を形成しているポーランドでは、ウクライナ戦争を契機に民主vs社会主義、親EU vs親ロ派などのいざこざがいたるところで聞かれます。ウクライナにおける非人道的行為は決して許されるべきではありません。一方で対立構造を深めることが多様なコミュニティにあたえる影響も大きいということを忘れてはいけないと思います。例えば、ポーランド以外でもロシア人、ロシア文化排斥の動きは日本含め、様々なメディアなどで報道されているかと思います。
ワルシャワはロシア人コミュニティやベラルーシコミュニティの規模も大きく、様々な意見、バックグラウンドをもっている人がいます。例えば、一定のロシア人は西側の主張をプロパガンダとし、ロシア国営テレビが繰り返す言い分とほとんど同じことを口にする人もいます。しかしその一方で、ロシアの公式見解に反対するロシア人の人もいます。また、どのような意見をもっていようと、差別の影響がこわいため “ロシア語を話したくない”、“国に帰ることができない”、“国籍をなるべく言わないようにしている”、“東側の人間だと思われたくない”などの差別や排斥の影響に関するネガティブな声も多く聞きます。
ポーランドのような、安全保障上の脅威が目の前に迫っている状況で、人は不安に駆られるあまり誤った判断や行動をしてしまいがちだと思います。意見を主張することは重要な権利ですが、どこまで許容されるのかといえば、個人の価値観や環境にもよるでしょうし、線引きは難しいところです。差別、暴力、嫌がらせなどのヘイトクライム(憎悪犯罪)に繋がらないよう、人権意識にもとづいた冷静な対応が求められます。特に、私たちのようにコミュニティに近い形で業務をしていくアクターにとっては、このような問題には特にセンシティブに向き合っていくように心掛けていきたいと思います。
チーフ 海外緊急人道支援担当 芦田