【開催報告】オンライン報告会「ネパールでの挑戦~初めての紙芝居つくり~三宅所長帰国報告会」
6月22日(水)にオンライン報告会「ネパールでの挑戦~初めての紙芝居つくり~三宅所長帰国報告会」を開催しました。
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<登壇者>
三宅隆史
1994 年にシャンティに入職後、海外事業課長、ミャンマー(ビルマ)難民支援事業事務所所長、企画調査室長、事務局次長、アフガニスタン事務所長、タイ事務所アドバイザーなどを経て、2017年より5年間ネパール事務所長を務めた。教育協力NGO ネットワーク(JNNE)事務局長も務める。現教育事業アドバイザー。
竹本舞
2018 年シャンティに事業サポート課海外緊急救援アシスタントとして入職し、2019年より海外事業担当としてネパール事業に従事。
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【ネパールでの生活】
ネパールでの5年間の生活を振り返り、写真とともにお伝えしました。
ネパールの国旗は世界で唯一、三角形を2つ組み合わせた形で、ネパールの子どもたちの誇りになっており、子どもたちが描く絵によく登場します。
2020年に4カ月、2021年に3カ月、コロナの感染拡大予防のため、全国でロックダウンが実施されました。道路は歩けず、許可がある車以外は通れない措置が取られました。朝夕1時間ずつ生活必需品を買いに行く時間は許可されました。大使館前の大通りは普段は車が多く渋滞していますが、ロックダウン時は牛が道路を横断できる状況でした。
カトマンズは空気が非常に悪く、世界一PM2.5に汚染されている都市で、道路歩いていられないほどです。コロナでロックダウン中には車が通らなくなったことで空気がきれいになり、アパートからヒマラヤが見られました。
【コロナ対応緊急人道支援】
コロナ前から地方で医療体制が整っておらず、コロナ禍には病院にコロナ患者が溢れました。大勢が適切な医療、福祉サービスを受けられず、自宅療養を余儀なくされました。シャンティは緊急人道支援を実施し、シャンティにとって初めての医療支援事業となりました。
ネパールには重症者を治療する医療機器が少ないため、医療スタッフの体制が整っている2郡4つの病院に、人工呼吸器、ICUなどの機器をニーズに応じて調達し供与しました。調達は業者を通じてスムーズにいきましたが、ネパール政府から支援の許可を得るのに3カ月かかってしまいました。コロナの感染のピークは7月でしたが、供与できたのは8月となり、タイミングを逸したのが残念でした。供与した医療機器は重症者の治療に使われ、コロナ後も呼吸器系疾患の治療に持続的に使われています。
【コミュニティ図書館能力強化事業】
ネパールには公共図書館がほとんどなく、地域住民の手で運営されているコミュニティ図書館が貴重な学校外教育の場となっています。コロナの感染拡大とロックダウン、行動制限を受けて、コミュニティ図書館の建設も大幅に遅れました。
コミュニティ図書館では、サービスが適切に行われるよう研修を実施しています。また、子どもから大人までだれもが使用できるようにさまざまな書籍が配架されています。子どもの部屋もあり、絵本やおもちゃなどを置いています。パソコン室もあり、ITスキル講座が定期的に開講されています。ネパールにはネットや通信環境、電気供給が不安定な場所があり、初めてパソコンに触れる方もいるため、パソコンの使い方について電源の付け方から教わっています。母親たちは子どもの部屋で子どもを遊ばせることができるので、研修や講座に安心して参加できます。学習センターとして生活に役立つさまざまな研修が開催されており、起業スキル研修の一つでは、ぬいぐるみの作り方を学ぶことができます。
コミュニティ図書館は幅広い年齢の人に使われています。建物は昨年10月に完成しオープンしましたが、12月に竣工式を実施し、外務大臣も出席しました。竣工式には1,000人以上の村人が参加しました。支援前は民家を借りて図書室として運営していましたが、コミュニティ図書館ができて、利用者数は2.3倍に増加しました。利用者は、「耐震構造の広くて良い図書館ができてありがたい。有効に活用したい。」と話してくださいました。
【地域学習カリキュラム改善】
カリキュラム開発はシャンティがこれまであまり経験がなかった事業です。2017年にネパール政府が国家カリキュラム枠組みを改訂し、地元のことを学ぶ「地域学習」という科目が始まりました。小・中学校で1日1コマ、週6コマの実施です。日本の総合的な学習の時間に近く、学校単位でカリキュラムや教材を作り、地元のことを学びます。しかし、実際のところ、ネパールのほとんどの自治体で地域学習は実施されておらず、代わりに英語が教えられていました。カリキュラムや教科書を作る時間、お金、資源がなかったのです。
そこでシャンティでは、先住民族チェパンが暮らす地域で、カリキュラム作りをサポートしました。市長、自治体の教育課員、教員、カリキュラム専門家、先住民族の組織、保護者でカリキュラム開発委員会を作り、カリキュラムを作成しました。その後、カリキュラムに基づいて、1~8年生の教科書と教員用手引きを作成しました。
教員研修も実施しました。児童中心の手法を取り入れたのが特徴です。例えば、「この村にはどんな植物が育っているのか?」をテーマにした際、子どもたちが家の近くにある草花を自分で取ってきて、先生が教室内に展示して共有し、一緒に学ぶという形を取り、子どもが体験しながら学びます。
研修が終わったところで、ロックダウンとなり、学校閉鎖が4カ月ほど続き、授業が始められない状況が続きました。学校が再開して地域学習の授業を見に行くと、ある子どもが手に持っている教科書の一番上に地域学習の教科書が置かれていて嬉しかったです。子どもたちは、「地域学習は楽しい。いろいろ遊んだり(外で調べたり)して体験ができるから。地元のことを学ぶので、ある程度知ってることを学ぶからわかりやすい」と言ってくれました。先生方も「(地元のことで知っていることなので)教えやすい」とおっしゃっており、この事業をやってよかったと思いました。他の授業についていくのが難しい子どもも、身近な題材を扱う地域学習は興味をもって参加できるようです。教頭先生からは、「これから(地域学習のおかげで)出席率も上がるのでは」との声も聞かれました。
【WFP連携栄養教育改善事業】
2020年から、国連機関WFP(世界食糧機関)と連携して栄養教育改善事業を行いました。この事業の前に、防災教育のために紙芝居を制作しており、それをWFPの方が見て、「栄養紙芝居を作って、栄養教育を普及しないか」とお話をいただいたのがきっかけでした。ネパールの子どもの36%が栄養不良の状態にある一方、肥満の子どももいます。ジャンクフードなどの健康に悪影響のある食べ物が流行ってきているためで、栄養教育を行う必要がありました。
栄養紙芝居の制作、教員用手引きの作成、教員研修を実施しました。研修では、プラカードに「ジャンクフードを食べるのはやめよう!」「食事の前に手を洗おう!」などと書き、町を行進して啓発活動を行いました。ネパールの学校では、保健体育の授業が週に4回ほどあり、保健の時間で栄養教育を行っています。
地域住民への啓発活動も行いました。家庭で食事を作るのは母親が多いため、母親たちに栄養について知ってもらうことが必要なためです。ネパールではラジオが普及しているため、週1回15分のラジオ番組を作って放送しました。視聴率はなんと95%で、住民60万人のうち55万人が聞いた計算となります。
【ネパールで初めての紙芝居制作】
2015年の大地震をきっかけに、シャンティは学校防災事業を開始し、3年で6タイトルの紙芝居を出版しました。ネパールには、それまで、ポスターや絵本などはありましたが、紙芝居はありませんでした。児童図書を作っている出版社は約10社(児童書専門は3社)あり、絵本の商業出版が成り立っています。絵本作家、編集者、イラストレーターがいて、流通システムがあります。しかし、紙芝居は1タイトルも作られていなかったため、紙芝居を普及させるべく、防災紙芝居を制作しました。
最初の紙芝居『なんで地震が起こるの?』
ネパールには、地震が起こるのは、ヒンドゥー教の怒りの神様シバ神が怒ったときに起こるなどの迷信があります。そこで、実際は2枚のプレートがぶつかってエネルギーが放出されることで地震が起こるということを子どもたちに正しく理解してもらうために作成しました。
紙芝居『地震が学校で起きたらどうする?』
この紙芝居は、地震が起こっている場面から始まり、紙芝居を揺らしながら次のページに進みます。地震が起こったらどうするかを教えるページでは、日本だと揺れが収まるまで机の下に隠れるよう習います(左側)。しかし、ネパールでは耐震構造の学校が増えているものの、そうでない学校もあるため、その場合は頭を隠して慌てず押さずに速やかに逃げて(右側)、建物が崩れてきたときに下敷きにならないようにと教える必要があります。絵本・紙芝居作家のやべみつのり先生にご指導いただき、左右で絵を分けて、指導する内容によって紙芝居を抜く方向を選ぶ形にしました。紙芝居は右に抜くのが基本で、紙芝居舞台もそうなっていますが、世界で初めて両方抜きができる紙芝居になりました。
【栄養教育紙芝居】
2020年から年に2タイトル制作してきており、今年も制作中です。昨年制作した『体の中の冒険』は、シャンティコラムで紹介していますので、ご覧ください。
お話のドラフトと作る過程でネパールの文化を学びながら、お話に取り入れています。工夫した点は、子どもたちが体の中の悪いところを治す度に聞き手と一緒に手を3回たたくようにしたところです。紙芝居は聞き手も声を出して双方向に交流するのが基本ですが、コロナで子どもたちが声を出さない方がいい状況だったため、手拍子を入れて交流できるようにしました。また、腸の中で闘う場面で紙芝居を少しずつ引くことで流れがわかるようにし、変化を付けました。さらに、全体的に登場人物の役割やセリフを統一し、悪いところを治したら手拍子をする、という流れを繰り返すことで、聞き手が参加しやすくなるようにしました。
この紙芝居は、ネパール政府の承認を頂いているのですが、ネパール政府は最初、ファンタジーや空想を教育に取り入れることに抵抗がありました。そのため、現地スタッフが紙芝居や物語を教育に取り入れることの有効性や重要性、お話の流れについて丁寧に説得をしてくれました。また、イラストはリアルに描くことが重要視されるので、ファンタジーの描き方をイラストレーターに伝えるのに苦労しました。他にも、感覚的なものを英語で現地スタッフに伝えるのが難しく、現地スタッフは英語で聞いたものをネパール語で紙芝居を知らないイラストレーターに伝える必要があり、苦労しました。コロナで現地に行けず、イラストレーターに対面で会えなかったため、コミュニケーションに時間がかかりました。
完成した紙芝居を使ってみて、教員からは、「子どもが絵とストーリーの両方から学べるので効果的だと思います。教員と子どもたちがコミュニケーションを取りながら学べるのがいいです。子どもたちは栄養の大切さについてより理解できるようになったと思います」との声が聞かれました。また、子どもたちは「腸の中で闘う場面が特に面白い」と話してくれました。
【オンライン紙芝居制作研修】
今年を含め12タイトルの紙芝居を制作してきましたが、ずっとシャンティのような外部団体が紙芝居を作ることは、本来は望ましくありません。紙芝居制作が絵本のようにネパール国内で商業的に出版され、普及するよう、作家とイラストレーターを対象とした研修を実施しました。
やべ先生がコロナで現地に来られなかったため、オンラインでアトリエからご指導いただきました。まず、紙芝居の歴史、特徴、作り方などの基本を講義いただき、その後、グループに分かれて作品を作り、最終日にその紙芝居を演じてもらいました。やべ先生のご指導のおかげでクオリティーの高い紙芝居ができました。これからネパール独自の紙芝居文化がこれから広がっていくのではと楽しみになりました。現在制作している栄養紙芝居は、この研修に参加した人が制作していただいています。
やべ先生からコメントをいただきました。
ネパールで最初の紙芝居の取り組みは、大成功だったと思います。三宅さんとネパールのみなさんのがんばりに敬服します。大地震を体験されたネパールで、防災の知識に関心を持ってハラハラドキドキ“自分のいのちは自分で守る”。災害の時の心の準備を、みんなと一緒に見ることで学び合うこと、いざという時、きっと役立つことでしょう。「栄養教育」の紙芝居のひとつ、『体の中の冒険』は、絵に、意外性と飛躍があり紙芝居の特質を生かした工夫があります。食べものと自分の体の関係を学び合うよいきっかけになると思います。紙芝居は多くの人と一緒に楽しみ共感し学びを共感出来るところが教材としても適しています。これからネパールの昔話や創作の紙芝居が出版されることも、大いに期待しています。三宅さんお疲れ様でした。
- <質疑応答>
Q:最近のネパールは大変発展しているように見えますが、支援は必要なのでしょうか?
A:都市部と農村部の格差は大きく、コロナでより拡大しました。教育面では、カトマンズの子どもの7割が私立校に通っており、学校閉鎖中もパソコンでネットを使ってオンラインで授業をしていました。しかし、農村部にはネットやパソコンがないため、学校閉鎖中は学びがストップしてしまいました。特に少数民族が暮らす地域、へき地、農村部はネットがなく、電気がないところもあり、教材図書が不足しているため、支援の必要性は大きいです。
Q:ローカルNGOとパートナーを組む際のプロセスについて教えてください。
A:現地NGOは3万ほどあるので、その中でいい団体を見つけ、交渉し、提携関係を結ぶところまでができれば、事業は7割方うまくいくと思います。各事業のパートナー団体は、その分野の知見や経験があり、そこにシャンティが紙芝居や読み聞かせの手法をインプットしたため、事業がうまくいったと思います。
Q:地域学習事業の現地教員へのカリキュラム指導は誰が行いましたか?
A:研修のトレーナーは、事業の現地NGOのトレーナーが担い、自治体の教育課も指導チームに参加しました。
Q:紙芝居や絵本の題材選びはどうやって行っていますか?
A:最初の3年は防災、次の3年は栄養や食生活というように、事業の目標に紐づいてテーマを決めています。その中で、それぞれのタイトルは、実際の問題やニーズからテーマを選んでいます。
Q:ネパールに5年駐在されて感じた、国の変化があれば教えてください。
A:地震から2年後の2017年に着任しました。当時は、住宅や学校、病院などが再建の途上で、元の生活に戻るのは大変だなという印象でした。4年目には建物の再建がほぼ終わり、耐震構造の校舎が基本になりました。”Build back better”(災害が起こる前よりよい状態に再建する)が達成されたと思います。もう一つ感じるのは、2015年の憲法改正による変化です。それまでは中央政府がすべて決めており、郡政府の人は中央政府の方を見て働いていました。しかし、2015年以降は中央分権化で地方自治体の長が選挙で選ばれ、その下に役人がつくようになったため、住民を向いて仕事をするようになったのが大きなよい変化だと思います。
Q:ネパール駐在中、様々な難局を乗り越えられたと思いますが、心がけていたことがあれば教えてください。
A:事務所を出たら仕事のことを考えないようにしていました。そのために、買い物や料理、友人と食事をする、テニスをするなどして、切り替えをするようにしていました。最初はそれが難しかったのですが、スタッフから言われ、その通りだと思い、切り替えるように心がけました。
- <最後に三宅さんから伝えたいこと、ネパールに期待すること、思い>
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございます。5年間、無事に任期を務められたのは、いろんな方のご支援とスタッフのおかげです。感謝しています。後任が萩原さんになり、全く心配ないと思っています。ご視聴いただいている皆様、今後ともネパール事務所、そしてネパールでの活動を見守っていただけますと幸いです。
※イベントの様子は、シャンティのYouTubeチャンネルにて公開されておりますので、どうぞご覧ください。
事業サポート課 長内