「ラオス教員の日」に寄せて - 山あいの学校で子どもたちを支える教員の物語
みなさん、ສະບາຍດີ(サバイディ:こんにちは)!
ラオス事務所の喜納です。10月は、世界やラオスで教員に感謝を伝える季節です。国際的には、ユネスコが定める「World Teachers’ Day(世界教師デー)」が毎年10月5日に設けられており、世界中の教員の功績をたたえる日となっています。一方、ラオスでは10月7日が「Lao National Teachers’ Day(ラオス教員の日)」として定められており、学校では子どもたちが野菜や米、花、メッセージを贈り、教員への感謝を表します。
ラオス教員の日
ラオス教員の日は、現在は祝日として広く認識されており、全国の学校でさまざまな記念行事が行われます。この記念日の成り立ちは、ラオス初の教員とされるカム先生の功績をたたえるために設けられました。カム先生が教員として勤務を始めた10月7日を「ラオス教員の日」と定め、1994年から公式に祝賀行事が行われるようになり、ラオス教員の日は今年で32年目を迎えます。 当日は学校で式典が開かれ、児童・生徒たちは先生に花や手作りの贈り物を渡したり、感謝のメッセージや歌、ダンスなどを披露したりします(Laos New Gazette 2025年10月7日の記事より)。
シャンティのラオス事務所で読書推進活動の担当として働くナリーさんの前職は教員でした。彼女もまた、教員の日には教え子たちから感謝のこもった贈り物をたくさんもらったそうです。

教員の日に児童たちから贈り物をもらうナリー職員

ナリー職員と彼女が受け持っていた子どもたち
また、この日は単に教員へ感謝を伝える日であるだけではなく、教育を通じて国の未来を築く教員の役割の重要性を社会全体で再確認する機会でもあります。ラオスでは、教員は「国づくりを担う人材を育てる存在」として重要視されており、この日は教育の価値を改めて見つめ直す特別な日となっています。
本ブログでは、ラオスの未来を担う子どもたちを育てる教員の一人であるシンカム先生を紹介します。シンカム先生は、シャンティの現行事業の対象であるラオス北部のへき地にある小学校で校長先生として働いています。先生になろうと思ったきっかけやどんな時にやりがいを感じるのか、そして子どもたちにどのような未来を願っているのか、聴き取りを通じて感じた教育への熱い思いやラオスの更なる発展に関する願いをお届けします。
シンカム先生は、優しい顔立ちと穏やかな声が特徴の48歳の男性教員です。4名の子どもを育て上げ、現在は奥さんと義母さんと3名で暮らしています。ラオスの教員の給与は非常に少ないため、日本では考えにくいのですが、農牧業や家の片隅で売店を開いて給与以外の収入を得て生計を立てている方は少なくありません。シンカム先生も、教員の仕事の傍ら、牛の世話をしたり小さな売店でお菓子や飲み物、調味料等を売ったりして小遣い稼ぎをしています。 そんなシンカム先生の朝はとても早く、飼っているニワトリの鳴き声と共に起床し、朝食を準備しながら、売店に買い物に来る村の住民と朝の挨拶を交わします。シンカム先生の住む村は郡の中心部から山道を車で1時間半ほど走らせた標高が高いところに位置しているため、夏の朝は涼しく、冬になると布団から出るのがおっくうになるほど寒くなります。毎日家族3名で朝ご飯を食べ、そうこうしているうちに出勤時間になります。
シンカム先生が勤める小学校は、児童が約50名の小さな学校で、そこに通う子どもは全員カム族でラオス語を母語としません。シンカム先生は、そこで校長先生として勤めています。校長先生とはいうものの、約50名の児童が学ぶ学校に配置されている教員数は彼を含めてたったの2名。そのため、校長の業務をしながら、シンカム先生は、3~5年生の複式学級を受け持ち、日々授業に当たっています。
教員としてこのような日々を送っているシンカム先生ですが、若いころは警察官や弁護士になりたかったそうです。そんな夢を描いていた高校時代に、進路教育の一環で郡の教育行政職員が彼の通っていた学校を訪れ、当時のラオスにおける教員不足の問題(ちなみに現在も教員不足の問題は解消していません)について話してくれたそうです。それを聞いたのが教員になることを意識し始めたきっかけでした。また、警察官や弁護士になるには、その仕事に就くための勉強をするために大金が必要であるという噂も耳にしました。当時は本人も含めラオスの人々は貧しい生活をしていたため、就職の入り口が比較的広かった教員職に就くことに決めました。 教員になって数々の学校で教えた後、奥さんの出身村にある現在の学校で勤めることになりました。そんなシンカム先生が教員としてやりがいを感じるのは、子どもたちが集中している姿を見せてくれる瞬間だそうです。
私も以前、シンカム先生のラオス語の授業を見学する機会がありました。その時に感じたのは、子どもたちの集中力の高さです。シンカム先生が担当しているのは、3年生から5年生が同じ教室で学ぶ複式学級です。複式学級では、複数学年分の授業計画や教材を準備しながら、限られた時間でそれぞれの学年に指導を行わなければなりません。さらに、子どもたちの多くはラオス語を母語としません。そのような環境にもかかわらず、シンカム先生が一つの学年を指導している間、他の学年の子どもたちは自ら課題に取り組み、落ち着いて学びを続けていました。そこには、授業づくりの工夫だけでなく、日頃から積み重ねられてきた子どもたちとの信頼関係や学習習慣の形成があるのだと感じました。

4年生のラオス語の授業で音読の練習をサポートしているシンカム先生

シンカム先生が3年生の児童に直接指導を行っている間与えられた課題に熱心に取り組む4年生(手前)と5年生(右奥)の様子
そんなシンカム先生でも、少数民族の子どもたちにラオス語を教えることには難しさを感じているといいます。 シャンティの研修やワークショップでは、ラオス語を母語としない子どもたちへの指導方法について学び続けています。また、研修で得た知識を実践につなげるため、同僚教員と教材研究や授業改善にも取り組んでいます。
「もっと子どもたちに分かりやすく教えられるようになりたい」
そんな思いが、シンカム先生の学び続ける原動力になっています。

研修に参加しグループワークに積極的に参加するシンカム先生

研修で学んだことを模擬授業を通じて実践することで定着を図る

同僚の教員と指導力向上を目指して教材の研究を行っている様子(シンカム先生からの写真報告より)
ちなみに、現在同じ学校で一緒に教えている写真の同僚の教員はなんとシンカム先生の教え子だそうです!「教え子が、教員になってくれるのはやっぱり嬉しい」と微笑みながら誇らしげに話してくれました。シンカム先生のその言葉には、一人の教員としての誇りと、次の世代への希望が込められていました。
深刻な教員不足や少数民族地域における教育課題が続くラオスですが、子どもたちの成長を願い、学び続ける教員たちがいます。
教員の日は、そうした先生方への感謝を伝える日であると同時に、未来を担う子どもたちの教育を支える人々の存在を改めて見つめ直す日でもあります。
シャンティはこれからも、シンカム先生のような教員たちとともに、すべての子どもたちが安心して学べる環境づくりに取り組んでいきます。
ラオス事務所 喜納


