少数民族が守り続けるそれぞれの文化 多民族国家「ラオス」のいま
50の民族が共存する国ラオス―急速な経済成長を遂げている一方、少数民族の言語が消滅の危機に瀕し、民族の文化や伝統が失われようとしています。刺繍などの伝統文化を守りたいモン族の女性や、少数民族の子どもたちと分かり合いたい学校の先生の思いから、文化を守るために見えてきた課題に触れてみたいと思います。
少数民族が守る文化の大切さ
ラオスの多くの少数民族は、自分たちを自然の一部ととらえ、自然との調和を大切にする文化を持っています。科学者でも見落としてしまうような自然の変化を察知したり、自然災害を予測し、自然と調和する狩りや農法を生み出すなど、変化に適応してきました。培われた知恵は、各民族の言葉で民話や伝説などの形で代々伝承されてきました。自然と調和した持続可能な社会を作るうえで、少数民族の文化を守ることは大切なことです。
文化を守るために見えてきた課題
いま、ラオスの少数民族の言語は消滅の危機に瀕しています。文字を持たない民族にとって言語は、伝統を守るための大事な柱です。しかし、ラオスの学校ではラオス語で授業を行うよう定められているため、少数民族の子どもたちが母語を学校で学ぶ機会がありません。民族の言葉を学び、使う機会が減ることは、少数民族の文化を理解する機会がなくなることを意味します。言語の消滅は、民族のアイデンティティや伝統の消失も意味します。
刺繍などの伝統文化を守りたい
モン族のマイさん(58歳)
私も夫も村に学校がなかったので、学ぶことができず戦時中は逃げる毎日でした。その後、結婚し、私はお米や野菜を育て市場で売りながら息子を育てました。モン族の文化では、市場で野菜を売るのは女性の仕事です。市場ではみんながラオス語を使うので、私も野菜を売りながらラオス語を覚えました。ラオス語が話せるようになってからは、さまざまな民族の人と話すことができるようになりました。
モンの文化では、お正月の祖先の祀り方、先祖の迎え方、お迎えする時に貼るお札の作り方や貼り方など、男性に継承される役割が多いです。女性はモンの刺繍をお母さんやおばあさんから習います。私も小さいころ、刺繍や縫い物を習って自分の服や家族の服を作ってきました。私たちも先祖から受け継いできたモンの文化を次につないでいきたいと思っています。
少数民族の子どもと分かり合いたい
エイ先生(22歳)/ 小学校3年生の担任
教員だった父は、私が小さい頃に亡くなったので、私は子どものころから親戚に預けられて育ちました。厳しい環境でしたが、必死に勉強を続け教員養成学校を卒業し、教員になる資格を取ったのです。自分にとって過酷な幼少期だったからこそ、勉強をすることの大切さは身をもって感じています。
私が勤める村はカム族が暮らす村で、村人や子どもたちはカム語を使います。私はラオ族でラオス語しか話せないので、カム語でコミュニケーションを取るのが難しいと感じています。特に、子どもたちがよく相談に来るのですが、カム語が不自由なことをもどかしく感じています。今は、少しずつですがカム語を理解できるようになってきました。言葉が違うことは難しさもありますが、お互いが理解できるように少しずつでも会話を続けることが大切だと感じています。
本記事は、シャンティが発行するニュースレター「シャンティVol.296 (2018年夏号)」に掲載した内容を元に再編集したものです。※ニュースレター「シャンティ」は年4回発行し、会員、アジアの図書館サポーターに最新号を郵送でお届けしています。
9月26日(土)に、オンラインイベント「国際協力の現場から」を開催します。第3弾はラオス事務所とつなぎ新型コロナウイルスが与えた影響やラオスの子どもたちの教育の現状、シャンティの取り組みについてスタッフがお伝えします。イベント詳細は下記よりご覧ください。
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