2023.03.29
海外での活動

ネパールで子どもたちが制作した絵本が出版されました

ネパール
活動風景

本日のブログでは、シャンティがネパールで出版した絵本の内容を一部、紹介します。

 

ネパールでは、初等教育の就学率は伸びを見せているものの、依然として教育の普及に課題があります。また、成人識字率が低く、十分な教育を受けられないまま大人になり、安定した仕事に就けず、貧困に陥ってしまう人が多くいます。

 

そのような背景から、シャンティはネパールで幅広い世代に学習機会を提供するために、コミュニティ図書館の支援をしています。図書館の活動の中で、ネパールの子どもたちがおじいちゃん、おばあちゃんから地域の昔話を聞き、ワークショップでプロの作家やイラストレーターから学びながら、自分たちで絵本を作る活動があります。このワークショップの講師を務めたイラストレーターや作家、プロの編集者がワークショップで子どもたちが制作した文と絵をもとに、絵本のデザイン・編集作業を行い、完成した絵本を出版しています。印刷された絵本は、シャンティが支援している図書館だけでなく、全国の160カ所以上の図書館に配布しています。

 

今回『カリガンダキの物語』『ダランの物語』『ジュンベシの物語』の3作品を出版しました。3作品はそれぞれ、ネパールの川、土地、村が話し手となり、それぞれ、自分たちにまつわる歴史を語るという形でお話が進みます。今回は『ジュンベシの物語』から、ジュンベシ村の名前の由来を伝える「私はジュンベシ」を紹介します。

『ジュンベジの物語』_表紙

 

私はジュンベシ

 

あるとき、月(ネパール語で「ジュン」)は、いつも空にいることにうんざりしていました。そこで、別の場所で一夜を過ごそうと思いつきました。

 

月が宇宙を見わたすと、地球は楽しそうな場所に見えました。

「地球のどこに行こうか?どこで一夜を過ごそうか?」と、 月は考えました。

 

周りを見渡すと、森の木の香りがし、川の水のせせらぎが聞こえ、祈りの旗で飾られた寺院のある場所が見えました。さらに、聖歌を歌う声が辺りに聞こえました。月はここで一夜を過ごすことに決め、空から降りてきました。

月はどんどん小さく小さくなって、降りていき、川のほとりに降りました。そして、川の水を飲み、岩にもたれかかって、やがて眠りにつきました。翌朝、月が目を覚まして、空へ飛び立とうとしたとき、昨日の夜にもたれかかって眠った岩に、自分の小さな跡が刻まれているのを見つけました。月は「しまったなあ」と思いました。

 

「私が地球にやって来たことを人々が知ったら、これから何度も来てくれと言うかもしれない。そうしたら、私は彼らをがっかりさせたくなくて、断れないだろう。しかし、空を離れてしょっちゅう地球にやって来れば、自分の仕事がきちんとできなくなる。そうなると、宇宙の仕組み全体に、必ず影響が出る。」月はそう思い、岩についた跡を拭き取ろうとしました。しかし突然月ははっとして、微笑みました。

「私はとても大きいのだ。この跡は、まるで地球の誰かが描いた絵みたいだ。これが私の跡だなんて、誰も思わないだろう。」と考え、月は空へと帰っていきました。

 

翌朝、農民たちが畑に向かう途中、川のほとりを通ると、岩に刻まれたその跡に気づきました。岩の表面に突然、一昨日までなかった跡が現れたので、みんな驚きました。

「昨夜ここに月がやってきたに違いない。」と、みんな口をそろえて言いました。

『ジュンベジの物語』_挿絵1

子どもたちが描いた「私はジュンベシ」の挿絵、月の跡

 

こうして、私は月が一夜を過ごした場所、という意味である「ジュンバス」と名づけられました。最近では、地元の人たちは、私をジュンベシと呼んでいます。表面に小さな跡が刻まれたこの岩を見るために、人々は遠くから尊敬の気持ちを抱いてやってくるのです。

『ジュンベジの物語』_挿絵2

子どもたちが描いた「私はジュンベシ」の挿絵、岩を見に訪れる人

 

おしまい

 

「月がやってきて、一夜を過ごした」という何ともロマンチックな話が名前の由来となっていると知って、私はこの美しい名前を持つ村にも興味がわいてきました。この村に住む子どもたちも、自分の住む村に親しみを覚えることと思います。

 

『カリガンダキの物語』『ダランの物語』『ジュンベシの物語』の3作品は、このお話のような、それぞれの地域に伝わる不思議な昔話や神話の短編集になっています。絵本を制作するワークショップに参加した子どもたちは、自分が制作に関わった絵本が実際に出版されたことにとても喜んでいて、「制作に携わった一人として自分に誇りを持つようになりました。」「出版された絵本を見て、とても誇らしいです。」といった声が聞かれました。

 

地域に伝わる昔話が、世代を超えて愛されるように。昔話を通して、子どもたちが自分の地域や文化、自分自身のことを大切に思えるように。そんな願いを込めて作られた絵本が、ネパールの図書館で多くの子どもたちの手に渡ることを願っています。

 

事業サポート課 湯浅

 

本事業は公益財団法人関西・大阪21世紀協会(https://www.osaka21.or.jp/jecfund/)の日本万国博覧会記念基金事業助成金の助成と、皆様のご支援を受けて実施しています。

日本万国博覧会記念基金