世界の識字率-9月8日は「国際識字デー」
もし文字を知らなかったら…
もし計算の仕方が分からなかったら…
想像してみてください。文字がわからず、計算できない自分を。
私たちは本や漫画を読むことも、正しく買い物することもできません。
普段の生活から、読み書きや計算することを切り離すのは、とても難しいことだと思いませんか?
日常生活で必要な文章を理解して読み書きできる能力のことを「識字」と言います。文字の読み書きや計算ができない人々を「非識字者」と呼び、世界には約7億8100万人(*)の成人非識字者(15歳以上)がいると言われています。(*)出典:EFAグローバルモニタリングレポート2015、ユネスコ
9月8日は「国際識字デー」
「国際識字デー」とは、識字の重要性を世界に訴えかける日として、1965年にユネスコが制定した国際デーです。1965年9月8日、イランのテヘランで開催された世界文相会議で、パーレビ国王が各国の軍事費1日分を識字教育にまわすように提案したのを記念し、制定されました。
世界の識字率
各国の識字率を地図で見ると、アフリカの識字率が全体的に低く、比較的識字率の高いアジアの中でも、アフガニスタンはとても低くなっています。文字の読み書きができないことで、得られる情報が不足し、書面での意思表示ができず、社会的な権利が大幅に制約されてしまいます。識字率が低いことは、国や地域の発展においても不利益になってしまいます。
出典:UNESCO Institute for Statistics Fact Sheets “Adult and Youth Literacy”, September 2015
識字率が低い理由
ではなぜこれらの国々では、読み書きできる人が少ないのでしょうか。識字率が低い背景には、歴史的、地理的な要因が考えられます。
まず、貧困や差別、紛争などの理由により、学校に通うべき年齢で教育を受けられないことが挙げられます。また、女の子よりも男の子の教育に力を入れる傾向があり、女性用トイレがない学校や女の子は勉強する必要がないと考える家庭が多くあります。小学校が無償化されていたとしても、交通手段がない遠方に住む子どもたちは学校に通うことができない現状もあります。学校へ通えたとしても、公用語で学校の授業が行われているため、独自の言語や文化を持つ少数民族の子どもたちの多くは授業についていけません。少数民族の言葉を話せる先生も不足しています。
人の生死に関わる識字の意義
では、読み書きができないと、生活にどんな影響を与えるのでしょうか。
実際にシャンティの職員が目の当たりにしたケースをご紹介します。
カンボジアの田舎の小学校で、10代半ばの男の子が倒れていました。
隣の母親は心配そうに子どものお腹をなでています。
私たちの姿を見つけたお母さんは胸のポケットから1枚の紙を取り出しました。
「息子のお腹が痛くなったときのアドバイスをお医者さんが全部書いてくれました。
でも…私はこの字が読めません。お願いです。ここに書いてある字を読んでください。」
どのコップに薬が入っているか分かりますか?
※カンボジア語(クメール語)で左から「水」、「毒」、「薬」と書かれています。
文字が読めなければ薬を選ぶことができません。カンボジアでは、字が読めないまま契約書にサインをしてしまい、土地をだまし取られたり、娘を売られたりする家族が後を絶ちません。また、薬だと思い農薬を誤飲してしまう人もいました。
母親が識字できる場合、5歳未満の乳幼児死亡率が低いという統計があり、識字率の向上は貧困解決に効果があると証明されています。識字者と非識字者の情報格差の広がりが貧困の連鎖を作り出す要因になっていると考えられています。
読み書きができない→農業に関する正しい知識が得られない→収穫が少ないため低収入&病気にかかりやすいため治療費がかさむ→貧しいため教育が受けられない→読み書きできない・・・このように非識字が、生活向上への妨げとなり、貧困の悪循環に陥りやすいのです。
SDGsと識字
2015年に国連総会で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)では、識字の重要性が強調されています。
SDGsの教育分野に関する目標4「質の高い教育をみんなに」には、「2030年までに、すべての青年と大多数の成人が男性も女性も含めて、識字と簡単な計算ができるようにする」という目標が定められています。
SDGsは識字について、文字を読めるか・読めないかではなく、識字能力の習熟度を測ることを一つの焦点としています。しかしながら、国によっては識字に関する正確なデータを入手することが難しく、習熟度をどう測るかについても模索されています。従来の調査からわかるデータを集めてみると、一概に「識字率が低い」と言っても、女性や貧困層の識字率は、男性や富裕層・中間層に比べて特に低いことが明らかになりました(*)。識字率を高めるためのプログラムを実施しても、参加するのが男性や富裕層ばかりでは「男性も女性も含めたすべての青年と大多数の成人が、識字能力や計算能力を身につける」という目標を達成することはできません。(*)出典:EFAグローバルモニタリングレポート2016、ユネスコ
2030年までに世界中の人が識字を達成するためには、国際的な識字の評価手法を開発することや各国が正確なデータを効率的に管理できるようモニタリング能力を獲得することが一つの鍵となります。
先ほどの薬の見分けの例で示した生活と識字の関係は、SDGsの17の目標と絡めて考えることもできます。読み書きができれば、正しい医療知識を得ることができます。農業や栄養について理解できます。収入を増やしたり働き方を改善したりできます。環境問題を認識して地球を守ることができます。SDGsのすべての目標の達成において、読み書きができることが大切な土台となるのです。
識字の問題に対する取り組み
シャンティは、識字が人々の生活にとってとても重要性なものだと考え、様々な活動をしています。カンボジアでは、コミュニティ図書館で識字教室を開催しています。夜に開催することで、日中は農作業や家事、子育てで忙しい人たちも参加でき、子どもから大人までそれぞれの目標にむけて文字を学んでいます。中には70歳になるおばあさんも「生きているうちに本が読めるようになりたい」と勉強しています。
本の力を、生きる力に。
本を開くことは、未来を拓くこと。世界には、生まれた環境が違うというだけで、本を知らない子どもたちがたくさんいます。そんな子どもたちに本を届けるため、一緒に応援してください。