2026.09.04
海外での活動

ラオスと絵本とことば

ラオス

サバイディ!(こんにちは!) 

現在、シャンティ国際ボランティア会ラオス事務所にて約1カ月のNGO海外研修プログラムに参加しています、西村太一と申します。ルアンパバーン事務所での研修も最後の1日となりました。本ブログでは、研修の締めくくりとして、この約1カ月間の活動と気づきを振り返っていこうと思います。長くなりますが、最後までお読みいただければ幸いです。 

 

5回くらい登ったプーシーの丘から見るルアンパバーンの街並み

5回くらい登ったプーシーの丘から見るルアンパバーンの街並み

 

 

これまでの活動 

シャンティのラオス事務所にはルアンパバーン事務所とビエンチャン事務所の2つがあり、私はルアンパバーン事務所で研修を行いました。 

1週では、ラオス事務所が行っている事業について説明をしていただくとともに、火曜日から金曜日にかけての4日間はポンサイ郡への出張に同行し、教員のフィードバック研修を見学させていただき、ラオス事務所のFacebookの投稿用の文章作成や写真撮影も行いました。 

 

フィードバック研修の様子

フィードバック研修の様子

 

2週では事務業務を中心に、様々な業務や自分の目標へ向けた活動を行いました。業務では、Facebookの投稿作成や書類の翻訳などを行いました。また、水曜日から木曜日にかけてはラオス事務所の年次セミナーがあり、ビエンチャン事務所のスタッフにもお会いしました。ラオス事務所の取り組みを知る良い機会であるとともに、職員の方々と親交を深めることができました。 

 

年次セミナーでのアイスブレイク

年次セミナーでのアイスブレイク

3週には、2日間の絵本読み聞かせワークショップに参加しました。これは読書推進活動の能力強化を目的としており、2日目にはルアンパバーン県立図書館を訪問し読み聞かせを実践しました。水曜日からはウドムサイ県の学校建設事業の出張に同行し、建設の合意が行われる過程や現地の様子を観察しました。日本との学校の違いに衝撃を受けました。 
 

学校建設のための合意署名会議の様子

学校建設のための合意署名会議の様子

現地の学校

ウドムサイ県の小学校

4週目にあたる今週は、自分の1カ月の活動を振り返りつつ、東京事務所との計画予算会議も見学させていただきました。
 

 

ラオスと少数民族とことば 

ラオスには多様な少数民族が暮らしており、公用語であるラオス語以外にもさまざまな言語が使われています。しかし、学校の授業は全てラオス語で行われ、少数民族の言語はあまり使われません。学校に通う小学生たちにラオス語を教えるのにも、ラオス語が用いられます。そのため、少数民族の子どもはラオス語を理解できないまま進級することもあり、学校教育の効果を最大限受け取ることができません。また、家に帰ってもそこで使用される言語はラオス語ではなく母語であるため、少数民族の児童がラオス語を使う機会は、学校にいる時間のみに限られているという現状です。 

実際にラオスに来る前にもこの現状自体は知ってはいましたが、現地に来て、さまざまなことを新たに学ぶことができました。 

まず、学校の授業が前提としている言語についてです。第1週目に行われた教員のフィードバック研修で、私は教員たちの模擬授業を児童役として体験しました。正直なところ、授業の内容はほとんど理解できませんでした。もちろん、私がラオス語をほとんど話せないことが大きな理由です。しかし、この体験を通して、授業で使われることばがわからなければ、説明を聞くだけでなく、質問に答えたり、教員とコミュニケーションをとったりすることも難しくなると実感しました。 

今回訪問した地域では、子どもたちのラオス語の理解度が異なっていても、同じ教科書を使い、基本的にはラオス語で授業が進められます。そのため、家庭で母語を使い、学校で初めて本格的にラオス語に触れる子どもは、教科の内容を学ぶと同時に、説明に使われるラオス語そのものも学ばなければなりません。つまり、ラオス語が分からないことは、ラオス語という一教科だけの問題ではなく、他の教科を学ぶための土台にも関わる問題なのだと気づきました。 

ただし、私の体験と現地の子どもたちの状況を、そのまま同じものとして捉えることはできません。私は短時間だけ授業を体験し、授業を受けることは非常に難しいと感じましたが、子どもたちは毎日その環境で学び、友達や教員との関わりを通して少しずつラオス語を身につけています。それでも、ラオス語の言語運用能力が不十分な状態で授業に参加する難しさの一端を、自分の体験として感じました。 

 

教員による模擬授業の様子

教員による模擬授業の様子

インタビューから見えたこと 

今回の研修では、ラオス事務所の職員の方々に通訳などの協力をしていただきながら、教育行政の職員、教員養成校や小学校の教員、村長にインタビューを行いました。立場によって回答は異なりましたが、複数の方の話に共通していたことがありました。 

1点目は、少数民族の子どもたちがラオス語に触れる機会の少なさです。今回訪問した地域には、家庭や地域で母語を使い、学校に入ってから初めて本格的にラオス語を学ぶ子どもがいます。そのため、学校で覚えたラオス語を家庭で使う機会が少なく、ことばを定着させることが難しいという話を伺いました。家庭では母語が中心であり、保護者がラオス語による学習を支える時間や環境も限られているため、学校で学んだ内容を家庭で継続することが難しい場合があります。これは子ども自身の能力の問題というよりも、ラオス語に触れ、実際に使うことのできる環境が限られていることによって生じる課題なのではないかと感じました。⁠⁠私自身、アメリカにホームステイしていた経験があるのですが、その期間に英語のリスニング力とスピーキング力が大幅に向上したと感じた経験があります。今回のインタビューで得られた声はそのような自分の経験とも重なりました。 

2点目は、ラオス語の理解が、ほかの教科の学習にも影響することです。授業は基本的にラオス語で行われるため、教員の説明や質問が分からなければ、算数などの内容を理解したり、自分の考えを伝えたりすることも難しくなります。つまり、学校で使われる言語は、単に一つの教科として学ぶものではなく、授業に参加し、あらゆる教科を学ぶための基盤になっています。 

3点目は、こうした課題が言語だけの問題ではないということです。遠隔地の学校では、一人の教員が複数の学年を同時に教えることがあります。そのため、児童に対するサポートが手薄になりやすいという話も伺いました。また、授業を準備する時間や費用、教材、教員数が十分でなく、行政機関から学校が遠いため、継続的な支援が届きにくいという声もありました。ことばの問題に、教材や人員、学校環境などのシステム面の問題が重なることで、教員と子どもの双方にとって授業が難しくなっていることが分かりました。⁠⁠ 

一方で、現場ではさまざまな工夫も行われていました。教員たちは、絵や実物、単語カードを使ってことばの意味を伝えたり、少数民族児童のためのラオス語教育方法のトレーニングが実施されている地域では、ラオス語を理解できる子どもが友達を助けるペア学習を取り入れたりしていました。インタビューでも、見ることや触れることのできる教材、発音を確認できる音声や動画などが必要だという声が多く聞かれました。ことばだけで説明するのではなく、絵、実物、音、友達とのやり取りといった複数の手がかりを用意することが、子どもたちの理解を支えるのだと感じました。⁠⁠ 

こうした聞き取りを通して、私は「ことばを、ことばだけで教えないこと」の大切さを改めて実感しました。そして、その可能性を私が実際に感じたのが、第3週に参加した絵本の読み聞かせワークショップでした。 

 

 

絵本のチカラ

読み聞かせワークショップ(絵本『はらぺこ あおむし』エリック=カール作 偕成社より)

読み聞かせワークショップ(絵本『はらぺこ あおむし』エリック=カール作 偕成社より)

3週の読書推進活動のワークショップでは、さまざまな絵本の読み聞かせを聞き、貴重な気づきを得ることができました。絵本には、分からないことばとその意味をつなぐ力があるということです。 

私はラオス語をあまり理解できません。しかし、読み手が絵を指しながら話したり、聞き手が「これは何?」という質問に答えたりする様子を見ることで、「このことばはこれを表しているのかもしれない」と感じ取ることができました。幼い頃に読んで既に内容を知っている絵本が多かったということも理由の一つだと思われますが、絵本の読み聞かせを通して多くのラオス語の単語、特に名詞を覚えました。 

絵本の情報は、絵と文字だけではありません。読み聞かせでは、読み手の声や表情、身振り、聞き手の反応も、内容を理解する手がかりになることに気づきました。絵本は非言語情報と言語情報が絡み合って、ことばと具体的なイメージを結びつける媒体です。なぜシャンティが長い期間絵本を届ける運動を続けてきたのかという理由の一端にも触れられた気がします。 

このワークショップでの経験は、インタビューで教員たちが絵や写真、実物などの教材を求めていたことともつながります。家庭でラオス語を使う機会が少ない子どもにとって、絵本は、絵を手がかりにラオス語へ触れられる教材の一つになり得ます。また、教員が一方的に読み聞かせるだけでなく、「これは何だろう」「次はどうなると思う」と問いかければ、子どもがラオス語を受動的に聞くだけでなく、自分から能動的に使う機会も生まれます。⁠⁠ 

一方で、絵本を置くだけでは足りないということも実感しました。本を読む人がラオス語を理解していなければならないからです。文字を読み、その意味を理解し、絵本を伝えられる人がいなければ、もしくは、児童がラオス語を読むことができなければ、絵本が持つ力を十分に生かせない可能性があります。絵本という「もの」と、その使い方や利用できる環境を一緒に考えることが継続的な言語学習につながるのではないかと感じました。だからこそ、シャンティは絵本を届けた後の言語教育のことまで考えているのだと、フィードバック研修で見たことと重ねて感じました。

絵本読み聞かせワークショップでの内容を実践する様子(絵本『ガンピーさんのふなあそび』ジョン・バーミンガム作 ほるぷ出版より)

絵本読み聞かせワークショップでの内容を実践する様子(絵本『ガンピーさんのふなあそび』ジョン・バーミンガム作 ほるぷ出版より)

 

 

ラオス国立図書館 

ヴィエンチャンを旅行中にラオス国立図書館を訪れました。館内へと足を踏み入れ、図書館の小ささに驚きました。私の家の近所の図書館よりも本の数が少なかったからです。キッズスペースに置かれている児童図書の数は同じくらいでしたが、一般書が圧倒的に少なく、衝撃を受けました。しかし、それ以上に衝撃を受けたことは、私が館内を見た範囲では、外国語の本が多いように感じたことです。韓国語・中国語・英語の蔵書が多くありました。外国語で本を読む人にとっては有用な一方、ラオス語で読みたい人にとって、十分な選択肢があるのだろうかと疑問を持ちました。少なくとも私にとっては、母語以外の言語で一冊の本を読むことは、かなりハードルの高いことです。シャンティでは、日本語の絵本をラオス語に翻訳し、現地の人が内容に触れやすい形にしてから届けています。一方、図書館には、翻訳されていない外国語の児童書や一般書も多くありました。どのように本を届けるかということについては、それ自体が目的になるのではなく、誰が、何語で、どのように読むのかまで考える必要があるのではないかと感じました。 

 

 

おわりに:ラオスでことばについて見つめ直し、ラオスのことばについて考えた1カ月 

今回の研修を通して、ことばを学ぶことは、単に単語や文字を覚えることではないと感じました。絵、声、身振り、友達とのやり取りなど、意味を想像するためのさまざまな手がかりがあって、初めて分からなかったことばが少しずつ理解できるようになります。模擬授業や絵本の読み聞かせを体験したことで、私自身もそのことを実感しました。 

また、絵本や教材は、ただ届ければよいものではありません。誰が、何語で、どのように使うのか、そして継続して使える環境があるのかまで考える必要があります。ラオス語で読める本や教材の選択肢が増えれば、子どもたちが新しいことばや考え方に出会う機会も、さらに広がっていくのではないかと思います。 

今回の研修で得た気づきを、これから私の専門である人間工学と結びつけていきたいです。学ぶ人に努力を求めるだけでなく、その人が自然に理解し、参加できる環境をどのようにつくれるのか、これからも考えていきたいと思います。 

1カ月にわたる研修では、東京事務所とラオス事務所の皆さまをはじめ、多くの方々に支えていただきました。本当にありがとうございました! 

 

 

追記 

ラオス語は言語学的に孤立語に分類され、文法も英語などに比べると難しくない(自分感覚ですが)ので、話す・聞くだけであれば、そこまで難易度は高くないと感じました。この研修期間中に、ローカル食堂のようなレストランであれば、入店から退店までラオス語のみでなんとか切り抜けられるようになりました! 

ただ、ラオス語の文字を読むのは、私にはかなり難しかったです。自分の脳のキャパシティでは処理しきれませんでした……。 

ラオスの文字

ラオス語の文字

 

2026年夏季NGO海外研修プログラム
ラオス事務所研修生 西村太一